「もはや暗喩としてのキスでは」BLにおける性描写の新境地
これまで、原点回帰、シンプルで王道の強さ、古典的で安定感のあるラブストーリーの表現をアプデし、目の肥えた視聴者を惹きつけている点を挙げましたが、魅力的なポイントはもちろん役者自身にも。本島純政と上村謙信の相性の良さ、素晴らしすぎませんか? それは正反対な性格を一目で理解できる原作へのビジュアルの寄せ方、わかりやすい身長差、オフショットとして共有される画像や動画から伝わる仲の良さなど、さまざまな場面から窺えます。
そして映像にしたときの演出の美しさ。全体的な質感が映画のようで、世界観にしっかりのめり込めるように作られている本作。第一話から効果的に「水」が使われています。蛇口の水があふれ、蛭川の頭に盛大にかかるシーンは誰もが目を奪われたことでしょう。水無瀬もこの時点で相当ドキッとしたのではないでしょうか。
夜中の公園で蛭川の頬に手を当てながら水無瀬がペットボトルの水を飲ませるシーンなんかはもう、暗喩としてのキスそのものです。過度にセクシュアルなシーンを作らなくとも、BLとしての「観心地」のある場面は作れる。勉強になります!
また、キスシーン、ベッドシーンなどでは効果的に青色がでてきます。それは先述の海のシーンを彷彿とさせ、波が二人の孤独を優しく包み込むかのよう。この視覚的効果は、普通のシーンとインティマシーシーンの空気の切り分けにも役立っています。だからこそ視聴者としても「くるぞ」という緊張感、高揚感が余計に高まるのです。
「同性愛は、思春期における一時的な感情」という言説の嘘
そして何より特記すべき素晴らしさは、多感な「未成年」の、思春期ならではの悩みやゆらぎ、心の動きをこれでもかというほど繊細に表現していること。それは、「同性を好きになる」という点においてもです。だれかに恋愛感情をいだいたり、性的な魅力を感じたりする思春期。本作では同性愛が主題の映画を鑑賞した際、水無瀬は蛭川に「俺達って、同性愛者なのかな」と聞くシーンがあります。
蜷川はそれに対して「今俺のこと好きって言った?」と笑っておとぼけ。性的指向をわざわざ確認するようなシーンは、ただのBLとしてのファンタジーではなく、現実と接続された描写としてとてもよかった。わざわざこの台詞があったのは「同性愛は、思春期の一時的な感情」という言説がいまだにあることを踏まえてのことでしょう。
最初にこの説を提唱したフロイトは、同性愛を異性愛に対して「未成熟」なものとしていました。日本でも長い間、心理学の本から新聞・雑誌の相談コーナーまでずいぶん使われてきました。思春期の自身の同性愛的感情に気づき、勇気をふるって打ち明ける相談者に、「君は異常じゃないよ、ただ思春期の一時的な感情でやがて異性を好きになるよ」と回答する。もちろん現在において、その回答は間違いです。
サブタイトルに「未熟」とあるのも、もしかするとフロイトの説を意識してかもしれません。それを下敷きにしつつも、「不器用に進行中」としている。世間から未熟といわれても、それを跳ね返すかのように現在進行系で強く生きている当事者はたくさんいる。そのことを考えさせられます。
「世の中には三種類の人間がいる。加害者。被害者。そして傍観者」。これは本作の水無瀬のモノローグとして語られた言葉です。この三者はいろんな場面で存在してしまう。三者を生まないようにするためには、自分を大事にし、相手も大事にして、よりよい人間関係を築くことが何より大事です。視聴者も、観ているだけではただの傍観者。でも、その先に進むのであれば「理解者」になれると思うのです。
BL作品を見てファンタジーをただ消費するのではなく、その先、現実のセクシュアリティマイノリティーたちのことを知り、社会のことをもっと理解できるようになる人が増えるとより目が肥えて、それに応えるように作品の質がより上がる。だからこそ私たちはちゃんと理解者になっていきましょう。そんなことを考えさせられる良作。二人がお互いの気持ちを確認し合うことになるであろう、最終話にも期待です。
「未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~」
出演:本島純政 上村謙信
今井悠貴 宮地樹 堀家一希/西原亜希 オクイシュージ 加藤貴子
原作:ヒヌン 『未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~』 (KidariStudio, Inc. & LEZHIN Ent.)
https://www.beltoon.jp/detail/
監督:柴田啓佑 牧野将
脚本:森野マッシュ 松下沙彩
制作プロダクション:ユナイテッドプロダクションズ
製作:「未成年」製作委員会 エイベックス・ピクチャーズ/読売テレビ/
【X】@miseinen_ytv
【Instagram】miseinen_ytv
【TikTok】@miseinen_ytv
2025.01.06(月)
文=綿貫大介
画像=読売テレビ