ドキドキ感はそのままに…古典的キスシーンの“アップデート”

 優等生とヤンキーというカップリングは定番ですが、お互いに違うから惹かれるのではなく、孤独という共通点を埋め合うように惹かれ合っていく様も秀逸。二人をつなぐ映画『水の音』に出てくる海の描写の、潮の満ち引きさながらに二人の思いは寄せては返していきます。映画の主人公は、苦しみの波が大事な人にまで押し寄せないように、海に残って見張っている。蛭川もそういう人になりたいと思って、水無瀬を見つめます。自分もつらいのに、誰かを守りたいと願っている。

 水無瀬は、虐待された蛭川を家に招きます。「かわいそう」という庇護の感情なのか、それとも別の感情なのか(別の感情だよ!)。水無瀬だって親の愛情を注がれていないという点では「かわいそう」だと蛭川は思っているし、それ以上の感情をもう抱いている。

 そして同じ日に「キスしたことある?」「やってみろよ」という急展開。挑発に乗った結果ではありながらも最初のキスシーンが。そしてキスされたあとの水無瀬の驚きの目パチパチの演技もよかった。完全に意識してしまうパターンのやつ。これ、ちゃんとお互いの「合意の上」であることもすばらしかった。性的合意のステップがあるから、古典的な展開もより安心して観られます。アプデに拍手!

 水無瀬が風邪を引き、蛭川が看病するというのもお馴染みのシチュエーションですが、描き方がすばらしい。弱っている人間に優しくする描写、嫌いな人いますか? 「風邪は人に移すと治るしいよ」。水無瀬が食べようとするソーダ味のアイスキャンディーを奪い、キス。

 驚きながらも受け入れる水無瀬の演技も、アイスで青くなった舌を見せてちょける蛭川の演技も、完璧なんですけど。しかも視聴者はしっかり世界観に浸っている上でなので、ラブコメのあるあるシーンを観ているときのような余計なつっこみを入れている余裕がない。もう、二人のやり取りを真剣に見つめてしまいます。漫画の世界をここまできれいによく映像化してくれました。二人から目が離せない!

「初めて正解を観た!」目からウロコの名シーン

 二人の恋はもちろん順風満帆にはいきません。水無瀬は両親の離婚に伴い、留学を勧められることに。「行かないで」と伝える蛭川。障壁を前に、恋が動き出します。特に好きだったのは第6話の夕日の海のシーン。

蛭川「お前がアメリカに行った後、どうしよう」

水無瀬「行かない」

蛭川「行けよ」

水無瀬「お前が行くなって言ったんだろ」

蛭川「それはただの本音じゃん。行かないの、だめだから」

〜ハグ〜

蛭川「行かないで……」

 マジか……。好きな人に対して別れ話を切り出したりするなど、“優しい嘘”を伝えることで、相手の背中を押すシーンはこれまでもいろんな作品で観てきたけど、初めて正解を観た気がしました。優しい嘘とか、いらない。本音と建前、両方伝えたらいいんじゃん! 今後これをほかの作品は見習ってください! 目からウロコでした。そしてこれも美しいシーンでした。

2025.01.06(月)
文=綿貫大介
画像=読売テレビ