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これなら、小説を書き続けていける

イジェ 「おばあさんになるまでは小説を書くと思います。映画を撮るのは、おばあさんになってから、ですね。年を取って、映画を撮って、近所の人たちや友達を家に呼んで美味しいものを食べながら観るのが私の夢です。

 私は小説を書き始めたものの、途中で「この作品はダメだな」と思ったことがあります。それでも最後まで一旦書いてみました。書き上げた時にどういう状態だったかというと、部屋の中がとても静かだったんです。そのとき、これは自分にとって良い失敗だなと思いました。

 映画を作るときは人やお金がとてもたくさん必要で、それがリスクになって失敗したときは大きな失敗になるわけですが、小説を書くときにはそれは自分一人のもので、いってみれば「何も起こらない失敗」のようなものです。だからそれを私は「良い失敗」だと思っています。もしも失敗したとしても、こういう失敗だったら、小説を書き続けていけるという確信を持ったんです」

【つづきを読む】『0%に向かって』という書籍タイトルの意味とは?

ソ・イジェ

1991年、韓国・清州(チョンジュ)生まれ。ソウル芸術大学映画学科卒。在学中に小説を書きはじめ、2018年に中編『セルロイドフィルムのための禅』が「文学と社会」新人文学賞を受賞し、デビュー。2021年に『0%に向かって』で若い作家賞、本書で今日の作家賞を受賞。続く2022年には『頭蓋骨の内と外』で2年連続となる若い作家賞、『壁と線を越えるフロウ』で李箱文学賞優秀賞、『0%に向かって』でキム・マンジュン文学賞新人賞を受賞と、デビュー数年にして数々の名だたる文学賞を受賞している。

0%に向かって

ソ・イジェ(著)、原田いず(翻訳)
定価 2,640円(税込)
左右社
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次の話を読む「韓国の映画好きはいま日本人監督の作品を観ている」気鋭の若手作家が語る、韓国映画界の“知られざる一面”

2024.12.24(火)
文=西森路代
撮影=山元茂樹
通訳=原田いず