2010年代後半、一気に「時代遅れ」に

 2010年代なかば、ヴィクトリアズ・シークレットはランジェリー店舗市場の半分を占めるまでになった。ジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフトといった人気歌手を呼び込んだショーも、同時期に1,000万人もの視聴者数を記録している。

 しかし、2010年代後半に入ると、一気に「時代遅れ」になっていく。俗に言う多様性ブームが到来し、さまざまな体型を肯定するボディポジティブ機運も上がっていったのだ。これらは、ヴィクシーブランドと対極。人権と健康の意識も向上した結果、ショーを前にやせ細っていく「エンジェル」の健康を心配するファンも増えていった。

 2018年には、ショーをしきっていた有名幹部エドワード・ラゼックが炎上を起こした。トランスジェンダーのキャスティング意思について問われると「我々の番組はファンタジーだから入れるべきでない」と返したのだ。「エンジェル」たちすら反発したこの騒動により、評判は悪化の一途をたどるようになる。

 ビジネスとしては、需要の変化に乗り遅れたことが大きい。当時、女性たちのあいだでは、着心地重視の志向がひろまり、ノンワイヤーブラの人気が高まっていた。つまり、身体を締めつける「盛りブラ」とは反対の方向性だ。時流の変化を読んでいたヴィクシーの女性幹部たちの退社もつづいた。男性経営陣が、細身セクシー主義からの転換や商品の多様化を拒んだ結果と言われている。この間、多様性を打ち出していった新興ブランドが売上をのばしていった。

 2018年、ヴィクトリアズ・シークレットの親会社の株価は3年間で70%下落した。ショーにしても、視聴者数が全盛期の3割に落ち込み、打ち切られた。

 2019年、決定的なスキャンダルが発覚する。親会社のCEO兼会長であったウェクスナーとジェフリー・エプスタインの関係が報道されたのだ。エプスタインとは、政治家や王族に対して少女たちを強制売春させていた容疑をかけられ自殺した人物。1980年代から2000年代にかけてウェクスナーから大きな権限を与えられていたエプスタインは、ヴィクトリアズ・シークレットのキャスティング担当だと吹聴し、未成年をふくめた女性たちを屋敷に集めていたという。彼に対する最初期の性暴行の訴えの記録は、1996年、ヴィクシーの仕事として呼び寄せられたモデルが提出したものであった。

2024.10.20(日)
文=辰巳JUNK