「現実」を感じさせた規模感
かつて女性の夢の象徴であったヴィクトリアズ・シークレットは、多様性の逆行とみなされるばかりか、性加害と結びつけられるまでになってしまった。
最終的に、ファンタジーを終わらせたのは「エンジェル」たちだった。エプスタインと親交があった前出幹部ラゼックの性的ハラスメントが告発されたのだ。10代モデルへの執拗なつきまとい、楽屋での股間接触のほか、女性社員への加害も訴えられていった。投資家たちが圧力をかけた結果、ラゼックは2019年に退社、ウェクスナーは2020年にCEOを辞任している。
再編を経たヴィクトリアズ・シークレット復活の舞台こそ、このたびのショーなのだ。凋落期から一転、ふたたび時代が味方についた面もある。米国ファッション業界は、多様性ブームがひと段落ついて「Y2K」細身セクシーブーム真っただ中。ヴィクシーも、ノスタルジーの一環として再注目されるようになっていた。
新たに打ち出されたブランドメッセージは、女性主導の「ファンタジーと現実」。ショーにおいても、セクシーさが維持されながら、プラスサイズやトランスジェンダーのモデルも登場し、日本人の美佳など非白人も増えていた。
なにより「現実」を感じさせたのは、規模感かもしれない。かつてのショーは美術も衣装もゴージャスだったが、今回のランウェイは一般的な滑走路。光り輝く「ファンタジーブラ」は見られず、モデルの着用下着はすべて市販品であった。
生まれ変わったヴィクトリアズ・シークレットは、ファンタジーとして復活できるだろうか? それは、世の女性たちが決めるのだろう。
2024.10.20(日)
文=辰巳JUNK