美智子さまから雅子さまに“受け継がれたもの”

 レースの起源は諸説ありますが、一説には衣服のほつれや裂け目を繕う際に、縫い目が糸で盛り上がり、それが模様のように見えたところから始まったといわれています。

 その歴史はとても古く、古代エジプトの遺跡から手織りのレースが発見されており、その後、シルクロードを渡って奈良時代の日本にももたらされたとか。

 装飾を目的とする独立した形のレースが生まれたのは、16世紀中ごろといわれています。

 レースは職人の手作業で作られ、完成までに膨大な時間がかかるため、ヨーロッパの王室や貴族などの間で愛される高級品でした。各国の王室の方々もレースを伝統的に好み、当時、イングランドの黄金期を築いたエリザベス1世の肖像画には、レースを用いた大きな襟を着用した姿が描かれています。

 ではレースはどこで作られていたのかというと、その頃は、イタリアやフランス、スペインなどの大陸側の主要国が中心でした。ところが18世紀後半にイギリスで産業革命が起きると、レース産業にも変化の時代が訪れます。機械式の自動織機が発明されたのです。

 これによって大量生産ができるようになり、女性たちが憧れるレース生地を使ったファッションが多くの人たちに普及していきました。つまり、イギリスは「機械式レース織機」発祥の地でもあったのです。

 雅子さまは外務省時代にオックスフォード大学に留学され、イギリスで暮らしていらっしゃったので、女性としての興味もあって、その事実をご存じの可能性が高いと思われます。

 雅子さまは王侯貴族ゆかりのレースを使ったお召し物で、そうしたイギリスの歴史に敬意を示そうとされたのではないでしょうか。

 これまでも皇室の方々は、ご訪問先への尊敬の念を装いで表してこられました。

 平成の時代、美智子さまが上皇さま(当時は天皇陛下)とともにバルト三国を訪問された際、それぞれの国の国旗の色に合わせたファッションを身にまとわれ、現地の人々から大歓迎を受けていたのが印象的でした。国内でも、沖縄を訪問される時には、美智子さまは沖縄伝統の織物である芭蕉布を用いたスーツを作られ、帽子にもあしらって、沖縄の人々に心を寄せていることを示されていたのです。

 ファッションに込められた訪問先へのお心遣いは、時代を超えて雅子さまに受け継がれているのでしょう。

 令和になって天皇皇后両陛下の公式な外国ご訪問は、去年のインドネシアに続いて2回目でした。国際経験が豊富な雅子さまが、ファッションを通してどんな発信をされるのか、これからも注目していきたいと思います。

2024.07.25(木)
文=つげのり子