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読者を虜にする“考察要素”との向き合い方

 SCPを簡単に説明すると、世界には人類を脅かす無数の怪異・現象・物品が存在し、それらを確保・収容・保護する全世界規模の秘密組織が「SCP財団」だという設定のもと、彼らが閲覧する“報告書”という形でユーザーが創作怪談を作っていくコミュニティサイトです。

 私が育ってきたネットロア怪談の多くは、怪談に乗っかりながら掲示板上を盛り上げる“ごっこ遊び”的な性質があったので、気がつけば夢中になっていましたね。

 またSCPの執筆ハードルの高さにも心惹かれました。書き込めばすぐ掲載されるような甘いものではなく、執筆用のルールブックに隠された秘密の暗号を見抜かないとそもそも執筆すらできません。それに執筆しても読者による評価が一定数を下回れば「〇〇時間以内に修正して高評価を得ないと記事は自動削除されます」といった通知が表示されるなど、SCPはとにかく管理人たちによるチェックが厳しいのです。

――梨さんの作品は読者に事件の全貌を考察させ、創作であることは明示しながら現実と創作の境界線を曖昧にする工夫が特徴的ですが、こうした作風はなぜ生まれたのですか。

 これもSCPの影響ですね(笑)。あのサイトでは基本的に世界観に沿った“報告書”という体裁でしか物語れないので、事件の証言や断片をつなぎ合わせていくことで壮大な怪奇現象の全貌を描写するしかない。編集後記的な解説要素を挟み込む余地がないのです。それに慣れ親しんできたこともあって、自然と読者に考察させるような作風におもしろさを感じるようになっていたのかもしれません。

 現実との境界を曖昧にするというのは、ネットロアが持つ性質と不可分だったから染み付いた特徴に思えます。ネットロアは掲示板に“本当にあったこと”として書き込まれ、それに乗っていく文化なので明確な作品としての線引きがほぼないのですよ。

――考察要素はそのハードルの高さも楽しさのひとつですが、それゆえ読者の読解力も試されます。このあたりのバランス設定は非常に難しそうですが……。

 考察要素は自分にとっての武器ですが、同時にそれ一辺倒になってもいけないと思っています。「意味怖」をご存じでしょうか。これは「意味がわかると怖い話」の略称で、一見するとなんてことない話が、隠された断片を考察することでゾッとするというホラーのジャンルです。

 でも、このジャンルのとある話に、あまりにも文脈からかけ離れた知識を用いないと真相にたどり着けないものがあって、それを読んだときに一瞬“意味怖の弱火アンチ”になったことがありました(笑)。

 “意味がわからないと怖くない話”“読者の理解力がないと楽しませられない話”というのは、ジャンルの間口を狭めてしまう一因にもなりうる。だから、私は考察要素を取り入れつつも、それがなくても楽しめる構造はどこかしら残すように心がけています。言ってしまうと考察型ホラーって王道のストーリーテリングへのカウンターでしかないのです。こういうものはいつか必ず読者が疲れます。そうなったときにも残るような作品を今後は作っていきたいですね。

2024.07.19(金)
文=むくろ幽介
写真=山元茂樹