この記事の連載
- 映画「化け猫あんずちゃん」インタビュー前篇
- 映画「化け猫あんずちゃん」インタビュー後篇
想像だけでは描けない動きを描き出せるのが、ロトスコープの醍醐味
──どんなことを実感されたのですか?
ロトスコープには、表現方法としての得意不得意がはっきりしているということです。
実写があるからこそ、より人間に近いリアルな動きや繊細な表現ができる一方で、実写の動き通りにアニメを描いてしまうと動きが小さくなってしまい、演技の持つ「うまみ」が薄れてしまう。拾うべき動きとそうでない動きを見極めるのが難しい、クセのある手法なんだな、というのは自分がやってみて気づいたことでした。
人間って、実はすごく面白い動きをしているんですよ。その何気ない動きって、頭の中の想像では絶対に描けないものだったので、そういう面白い動きを描き出せるのは、ロトスコープならではの醍醐味だなと感じました。
──今回は山下敦弘監督との共同監督です。具体的にどのような役割分担で制作が進んだのでしょうか。
『花とアリス〜』の時は、本編の3DCGアニメーションがメインで、3DCGで表現するのが難しい部分をロトスコープで補う、というのが私の役割でした。でも今回は、共同監督ということで、脚本から実写の撮影まですべて参加させていただいて、ゼロからつくりあげるという体験をさせていただきました。
「最初から最後まで作品にかかわれた」という意味でも、すごくいい経験をさせていただきました。
──山下監督とは、本作の前に豊島区の短編アニメでもご一緒されています。
山下さんとご一緒させていただくのは今回がはじめてでした。これまでアニメーションをやったことがない山下さんと、そんなにロトスコープの経験値があるわけでもない私がいきなりロトスコープの長編を作るのは怖いから、1本短いのをやってみたいよね、と話していたんです。
そうしたら、ちょうどいいタイミングで、日中韓文化事業イベントで流す『東アジア文化都市2019豊島PR映像』のお話をいただけて。この時に共同監督という形でやらせていただけたことで、今回スムーズに作品づくりに入れたと思っています。
その短編では、今作の『化け猫あんずちゃん』でもご一緒する池内義浩さんなど、「チーム・あんず」にかかわる方も多く参加されていたんですよ。ですから、アニメ制作側としては実写チームの動きを、実写制作側は「ロトスコープアニメってこういうことができるんだ」ということをお互いに知る、すごくいい機会にもなったと感謝しています。
フランス側から提案があった“ピエール・ボナール”がヒントに
──今回は、フランスのスタジオ「Miyu Productions」もアニメ制作にかかわっています。これは、どういう経緯ですか?
2018〜19年頃だったと思うんですけど、Miyu Productionsから、私の作品に興味があるから何か一緒につくらないかと、個人的に制作のお誘いをいただいたんです。まさか自分がフランスのアニメーション会社からお声がけいただけるとは思っていなかったので、すごくビックリしたんですけど、ちょうどその頃『化け猫あんずちゃん』の企画が上がった頃で。自分としてはあんずちゃんをやりたかったけれど、なかなか企画が進まなかったので、「いまこういう企画を進めているんですけど、一緒にやりませんか」って逆提案したんですよ。そうしたら「すごく面白い」と興味を持っていただけて、そこからあんずちゃんの企画も動き始めました。
──Miyu Productionsとの役割分担はどのように。
実写撮影とキャラクターの作画は日本側で行い、背景美術と色彩設計をMiyu Productionsが担当する、という体制で制作を行いました。
Miyu Productionsの美術監督のJulien De Manさんは、ジブリの『レッドタートル ある島の物語』の美術担当もされている方です。作品によってトーンを変え、その作品の持ち味を最大に引き出してくださるのが特徴で、今回はあんずちゃんの企画を観た時に、ポスト印象派のピエール・ボナールの絵がイメージにあるとご提案くださり、そこからイメージがふくらんでいきました。
原作はモノクロなので、私はご提案を聞くまでモノクロのイメージしかもっていなかったんですけど、出していただいたカラーイメージを観たら、すごく夏らしい綺麗な色彩で感動しました。
線がふにゃふにゃやわらかい感じもあんずちゃんのゆるいキャラクターイメージにぴったりで、自分にはなかったイメージを引き出していただけて、さらによい作品へと向かっていくことができたと思っています。
2024.07.19(金)
取材・文=相澤洋美
写真=平松市聖