国民的大ブームとなった「パプリカダンス」や、Sia『Alive』日本版MVでの土屋太鳳への振付、米津玄師の『感電』のMVの振付などで知られる、ダンサー・振付家の辻本知彦の初の著書『生きてりゃ踊るだろ』(文藝春秋)。
同書から、振付を担当したブロードウェイミュージカル『RENT』日本公演(2008年)の稽古場での森山未來との出会いについて、一部を抜粋し掲載する。
そんなに踊れるんだったら、と振り付けを3回変更
苦労はしたものの、演出家と徹底的に話し、台本を読み込んで考えた振付にはある程度の自信がある。ところが、年功序列が大きい舞台の世界で、踊ることを専門としていないベテランの役者たちに伝える難しさという壁にぶつかった。
僕はダンスのことばかり考えていたから、稽古場でつねに「もっとできるだろう」「もっと熱く本気でやってくれ」と思っていた。俳優たちにしたら、お芝居、歌、ダンスと総合的に行うわけで、ダンスだけをフルパワーでやるわけにはいかない。でも、全員が6割程度の力しか出していないように見えていた僕は、けっこうきつい言い方をしてしまっていたように思う。
そんななかで主演の森山未來は熱い気持ちで応えてくれた。僕の振付をどんどん吸収して期待以上のものを返してくれた。そんなに踊れるんだったらと、振付をレベルの高いものへと3回変更した。さすがに4回目のバージョンアップは演出家から止められたけれど、このときの彼との濃密な出会いがのちにライフワークとしてのセッションへとつながっていく。
じつは『RENT』で出会った頃、森山未來とは不毛な言い合いも多かった。稽古場では最高の熱で応えてくれたけれど、飲みの席で僕が芝居のダメ出しをすれば、負けじと未來も僕のダンスのダメ出しをしてくる。互いにリスペクトしているけれど、表現者としての気質が似ていて、飲むとつい相手に細かいことを言いすぎてしまう。
僕もまだ若かったんだと思う。7つ年下の彼からダンスに関して「もっとストーリーを紡いだほうがいい」と言われて、かなりむっとしたのを覚えている。はたから見ると激しくやり合っている場面も多かったようだ。
2023.11.25(土)
著者=辻本知彦