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かつては「世界一踊らない民族」とも言われた日本人。日本はいつからダンス先進国になったのか!? パリ五輪で新競技として追加される「ブレイキン」でも日本人の入賞が期待される今、国民的ダンスの作り手である辻󠄀本知彦さんとMIKIKOさんが、日本のダンスシーンを縦横無尽に語りました。『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』より、一部ご紹介します。
今、ダンスも多様性の時代を迎えている

――今、日本のダンスが世界的に注目されるまでになった理由はどこにあるのでしょうか。
辻󠄀本 間違いなく練習量ですよ。日本人はめちゃくちゃ練習しますから。
MIKIKO それに研究熱心ですよね。今の時代は、世界中のコンテストの動画をどこでも見られるのも大きいです。
辻󠄀本 動画を見ることで技術が身につくスピードも加速しますよね。ブレイキンの技でも、かつては習得するのに1年、2年かかるといわれていたものが今では数カ月でできてしまう。教え方がうまくなったり、周囲にうまい人が多くなったという進化もあるでしょうね。だんだん「グルーブが表現できない」という日本人がぶつかりがちな壁もなくなってきて。
MIKIKO ないですね。克服したのではなく、意識しなくていい時代になった。それこそ私がNYに学びに行ったころはうまい人は全部黒人。どうしたら彼らのようなノリが出せるのか一生懸命考えていましたね。ダンサーだけじゃなく、黒人の女の子がクラブでドリンクを飲むときにリズムにどうノッてるかまで注目してました(笑)。
辻󠄀本 今はそのノリ方じゃなくても、トリッキーさやオリジナリティーで勝負できるようになった。まさにダンスも多様性の時代ですよね。
コンプレックスの解消がきっかけで「手の振付の人」みたいに
MIKIKO NYで「じゃあ、自分は何を特徴にすればいいのか」を突き詰めて考えられたのは収穫でした。欧米人の方に比べたらスタイルで負けちゃう。鏡を見ると足は長くないけど手は長い。そういえば、広島の師匠に「手の使い方をマスターしたらいいんじゃない」と言われたことを思い出して。このコンプレックスの解消がもとになっていつのまにか「手の振付の人」みたいになった気がします(笑)。
辻󠄀本 MIKIKOさんの振付は手と首の角度がとてもかっこいい。
MIKIKO それはモダンバレエのエッセンスかもしれません。それで、音楽はヒップホップの感じ方をしている。Perfumeの振付は、そんな中からできたのかもしれないなと思います。
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――どのジャンルにも属さないから、新鮮な振付になるのですね。
辻󠄀本 和の雰囲気を違和感なくダンスに落としこんでるセンスもすごいと思う。「抜き」がなくて全部がシステマチックにピタッとハマる感じ。
MIKIKO たぶん昔だったら、キレが良すぎることはかっこ悪い、とも思われていたと思うんですけど、今では日本人のダンスの美点として認められていますね。
2022.12.29(木)
文=粟生こずえ
写真=平松市聖
出典元=『週刊文春WOMAN2023創刊4周年記念号』