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空白があったテの人物像

――アップさんが演じたテは身寄りがなく、自閉症の影響でコミュニケーションが他者と上手に取れない、子供のようなところのある青年です。演じるにあたってどのような準備をされましたか?

 まず最初に自閉症の子供達の財団に行き、子供たちと様々な話をしました。そして気づいたのは、子供たちはそれぞれに違う才能を持っているということでした。その財団の理事長からも詳しいことをお聞きして、いろいろなことがわかりました。僕は演じるために情報を集めるんですが、今回は特に学びがありました。

 演技に役立ったのはもちろんですが、『フンパヨン 呪物に隠れた闇』に出演することで得た一番のことは、自閉症の子供たちについて理解を深められたことでした。それが自分としてはとても嬉しかったですね。またリサーチした結果を持ち帰って、監督と演技コーチとも相談をして、テのキャラクターを一緒に作りました。

――ではテの人物像については、最初の脚本から変わった部分もあるんですか?

 はい。彼のキャラクターについては、監督が書いた脚本の段階で空白の部分が結構あったんです。ですから、僕は最初からテと青年のキャラクター作りに関わることができ、監督やプロデューサーたちと、彼はどんな人物なのかという話し合いをして、最終的にテの人物像を作り上げました。だから最初の脚本で書かれていたテのキャラクターと、実際に撮影に入った時のテは全く別人のようでした。

――すごくやり甲斐のあるお仕事だったんですね。

 そう、とてもやり甲斐がありました。僕にキャラクターを作る機会を与えてもらい、とてもよかったです。

――アップさんも、共演のプーウィン・タンサックユーンさんも有名な俳優ですが、今回は全ての役をオーディションで決めたと聞いています。アップさんはこの役のオーディションを受けようと思った理由は何でしたか。

 プロットと、それぞれのキャラクターのバックグラウンドを書いた内容が送られて来て、それを読んだ時にぜひ自分が演じてみたいと思いました。理由としては、まずホラー映画だということ、そして演技者としてすごくチャレンジになるだろうと思ったからです。この役を演じられたら役者としてスキルアップになるだろうと思い、オーディションに行くことを決心しました。

2024.06.27(木)
文=石津文子
写真=志水隆