メアリーはある意味で聖母の象徴

ーーアレクサンダー・ペイン監督は、これはメアリー、ポール、アンガスという三人の人物による伝統的なクリスマス・ストーリーであり、メアリーはある意味で聖母メアリー(マリア)の象徴でもあると言っていました。

 確かに、その通りですね。でも監督は、私にはそんなことは一言も言ってなかったんですよ。メアリーは彼らとっての母親的存在だ、ということは意識していましたが、聖母メアリーとは思いもしませんでした。

ーーアレクサンダー・ペイン監督の素晴らしさはどんなところですか?

 彼は本当に親切で、環境作りがとてもうまいんです。彼の現場では、自分は守られていると感じさせてくれますし、彼は人をジャッジしたりしません。そしてエゴもありません。これはとても稀なことなんです。ほぼ完璧な素晴らしい環境で仕事をすることができましたし、だからこそ真に美しい映画を生み出せるのだと思いますね。

ーーポール・ジアマッティと共演した感想を教えてください。

 彼は最高の人。彼は美しい心を持つ、美しい男性なんです。うちも外もね。気遣いがものすごくある人なんです。そして、とんでもない才能の持ち主。私は彼のためならなんでもします! 本当に寛大で、豊かな知識の持ち主で、人に与えることを惜しまないんです。最高に素晴らしい共演者ですよ。

ーーポールが演じた教師ハナムはちょっと偏屈な男ですが、少しも共通点はないんでしょうか?(笑)

 ノー、ノー、ノー! 全く似ても似つかないですよ(笑)。

ーーもう一人の共演者、生意気な生徒アンガスを演じたドミニク・セッサについても聞かせてください。彼は全くの新人で、学校の授業以外、演技経験がなかったそうですね。

 そうです。演技の仕事をしたことがなったんです。この『ホールドオーバーズ』が彼にとって初めての作品になったことを、私はとても喜んでいるんですよ。プロの役者として、最高の現場を経験できたわけですから。私はドミニクのことを長老とか、グランパって呼んでいるんです(笑)。だって彼はとても若いんだけど、老成したところがあり、知性があって、あっという間に現場に馴染んでいました。本当に素晴らしかったですよ。彼はありのままの自分をそのまま表現することができたんじゃないでしょうか。とても親しみやすい、いい子なんです。

2024.06.21(金)
文=石津文子