『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』で、第96回アカデミー賞助演女優賞を受賞したダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。名門校の寄宿舎を舞台に、年齢も人種も性別も違う3人が心を寄せ合うようになっていくこの映画で、彼女が演じたのは一人息子をベトナム戦争で亡くした料理長メアリー・ラム。

 人生の機微を感じさせる演技で、なんと世界中の67もの演技賞を受賞した全世界注目の才能に、幸運にもインタビューが実現した。表現豊かに語る彼女は、映画の中と同じ懐の大きさを感じさせる女性だった。

ーー 本当に素晴らしい演技でした。この映画を観たほとんどの人は、この映画を、そしてあなたが演じたメアリーを愛さずにはいられません。その理由をあなたはどうお考えですか?

 ありがとう。きっとメアリーは誰しもが親しみを感じる、共感できる人物なんだと思います。私も彼女を誰もが会ったことがある女性として演じようと努力しましたし、この物語にはこれはきっと自分のことだ、と感じられる部分あるんです。

 実際、人は愛する誰かを失ったとき、悲嘆に暮れながらも、その後も自分の人生を生きて行かねばならないわけです。その日々はどんなものなのか。『ホールドオーバーズ』の中ではメアリーがそれを経験して見せてくれるわけですが、できればそんな時、「自分は一人じゃない」と思いたいはず。この映画を多くの人が愛してくれる理由は、そこにあるのではないかと思います。

ーーあなたから見たメアリーという人物、そして脚本を読んだ時の印象を教えてください。

 彼女は怖いもの知らずで、自分の考えをはっきりと口にする女性です。仕事もきちんとする。そこが私は好きですね。脚本の段階で、すでに人物がしっかりと描かれているんです。一見、何も考えずに楽しめる映画のように見えますが、実は深いところがある。

 そして男性の脚本家であるデヴィッド・ヘミングソンが、女性の視点に立ってメアリーという人物を書いていることが嬉しかったですね。そしてこれは伝統的な楽しいクリスマス映画の形式を借りながら、クリスマスの持つ違う側面も描いているんです。そうしたものをひっくるめて、とても真実味があると感じました。

ーーメアリーはあなたの実年齢よりもかなり上の設定だと思われますが、どのように役作りをされたんでしょうか?

 メアリーはおそらく私より15歳くらいは上でしょうから、家族を参考にしました。また年齢に加えて、時代的にあの頃は動きなど全てにおいて今よりもゆったりとしていたと思うので、そこは意識して演じました。話し方も普段の私より少しゆっくりめにしています。たとえば「グラスを取ってちょうだい」なら「グラースを取ってちょうだーい」という具合に、語尾を伸ばしてしゃべってるんですよ。あの頃の中年女性らしく。

2024.06.21(金)
文=石津文子