泰雅族の口琴が奏でる神秘の音色

 谷關は温泉地として開発される以前から、台湾原住民・泰雅(タイヤル)族の集落があった場所。その独自の文化、言葉、風俗習慣の一旦を知ることができるアクティビティが「タイヤル族の調べ」です。

 泰雅族の起源にまつわる伝承や、ミステリアスな紋面(顔の入れ墨)、女性の必須技術であった織物、楽器でありコミュニケーションツールでもある口琴について紹介する座学は、興味深い話の連続。

 紋面は、男性なら狩猟、女性なら織物の技術を習得して初めて入れることが叶う、一人前(成人)の証。また女性は、結婚できる年頃になると花嫁衣装のための機織りを始め、技術の優劣で女性的地位が決まっていたとか。

 口琴は本来、男性がつくるもので、女性への求愛にも使われたそう。また情報伝達にも使うことができたため、日本統治時代に禁止され、その技術は徐々に失われてしまったという悲しい歴史があります。

 座学の後は、本物の竹を彫刻刀で削って口琴をつくるワークショップ。つくるのはリードが1本のもっともシンプルなタイプですが、けっこう本格的です。

 出来上がった口琴は、もちろん使用可能。口元で固定し、紐を引っ張ると、リードが振動してビョーンという音が出ます。口の開き方によって音の高低や調子が変わり、言葉代わりになったというのも納得。

 口琴は、東南アジアおよびユーラシア大陸にも広く分布している楽器で、日本ではアイヌの「ムックリ」が有名。泰雅族の口琴も、どこからどのようにして伝わってきたのか、興味はつきません。

2024.06.02(日)
文=伊藤由起
写真=榎本麻美