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 「王道なのに、あたらしい。」をテーマに、星野リゾートが全国22カ所に展開している温泉旅館ブランドの「界」。その22番目の施設が、2022年11月にオープンした「界 雲仙」です。長崎県の雲仙天草国立公園内の雲仙温泉に位置し、雲仙地獄の噴気や湯気を目の当たりにするダイナミックなロケーションで、これまでの界ブランドの宿とはまた違った魅力にあふれています。


長崎独自の「和華蘭文化」を館内随所に凝らした設え

 エントランスを抜けてロビーに足を踏み入れたとたん、目の前に広がる景色に心を奪われます。床から天井まで全面ガラス張りのロビーの外には、池を隔てて雲仙地獄の噴気がもうもうと立ち上っています。雲仙地獄は、水蒸気を含む火山ガスがいたるところで白い煙を上げている噴気地帯。大自然の圧倒的な力を間近に感じ、これから始まる雲仙ステイへの期待が高まります。

 改めて見回すと、頭上には意匠の異なる大きな3つのランプが下がっています。「界 雲仙」のコンセプトは、「地獄パワーにふれる、異国情緒の宿」。ここ長崎は、16世紀半ばから南蛮貿易の中心地となり、鎖国時代にも唯一海外へと開かれた貿易港でした。そのため、オランダ(蘭)などの西洋や中国(中華)などからさまざまな文化が流入し、それが日本の文化と融合し、長崎独自のも「和華蘭(わからん)文化」となっていきます。

 中でも雲仙は、鎖国時代に出島もあるオランダ商館医のケンベルやシーボルトを通じて海外諸国に紹介され、海外諸国と歴史的なつながりがある土地。「界 雲仙」ではこの地の歴史を大切に考え、館内の設えのさまざまなところに「和華蘭文化」を取り入れています。ロビーのランプのデザインも、それぞれ日本(和)、中国(華)、オランダ(蘭)をイメージ。まさに長崎ならではの異国情緒が漂うレセプションです。

 ロビーから続くフロアには、コーヒーや紅茶などと共に、雲仙ゆかりの書籍を楽しむことができるトラベルライブラリーが。壁面を彩っているのは、島原木綿。島原市の一部に伝わっていた織物ですが、一時は途絶え、“幻の反物”と呼ばれていたとか。現在は保存会の人々が復興し大切に守り継いでいるそうで、その貴重な価値を知ってもらいたいと、「界 雲仙」のさまざまな場所にあしらわれています。

2023.01.12(木)
文=張替裕子(ジラフ)
撮影=橋本 篤