水火天満宮と言われて、「ああ、あそこね」と答える人は、あまりいないでしょう。それほどひっそりひと気もなく佇んだ神社です。
しかし隠れた桜の名所として知る人ぞ知る穴場なのです。場所は、堀川通上御霊上がる東側で、北大路と今出川の中ほどと言えばわかりやすいでしょう。923年に醍醐天皇の勅願で、延暦寺の第13代天台座主尊意僧正によって建立された最初の天満宮といわれています。祭神はもちろん菅原道真公です。
道真の死後、都に相次いだ災いをおさめるために、道真の師であった尊意僧正が宮中に向かおうとすると、途中で賀茂川が行く手を阻むかのごとく氾濫、祈祷をしたところ川端の石の上に道真が現れ昇天し氾濫がたちまちおさまったとの伝説があります。境内にはその石、登天石が祭ってあり、隕石かと言う人も。
境内を覆い尽くすように、2本の紅枝垂桜が枝を広げています。風で揺れる枝の後ろに、朱塗り鳥居やうっすら燈った提灯をぼかして入れると美しいでしょう。
水火天満宮から少し下がると本法寺があります。境内を西から東へ抜けていくと、見事な桜が本堂と多宝塔を彩ります。長谷川等伯ゆかりの寺で、京都三大涅槃図の一つ、巨大な等伯筆の「佛涅槃図」(レプリカですが)が見られます。
本法寺の東に建つ趣のある仁王門(こちらが正門)を出ますと、そこは小川通、そして目の前には裏千家今日庵の玄関があります。着物姿の師匠らしき方が行きかいます。少し下がると、表千家の不審庵の堂々とした玄関があります。凛とした空気が張りつめます。異次元の世界を楽しみましょう。
またこの界隈は秀吉が意図的に寺を集めたため、近隣に多くの古刹があります。雨法院や妙覚寺等も桜の名所です。
水火天満宮へのアクセス
交通手段 地下鉄「鞍馬口」駅下車。市バス「天神公園前」下車。
小林禎弘
フォトグラファー。京都市生まれの京都市育ち。同志社大学を卒業後3年間の公務員を経て撮影の世界へ。雑誌、書籍、広告を舞台として、京都を中心に西日本を幅広くカバー。「撮影歴30年ですが、それくらいでは京都の事はまだまだわかりまへん」。
2014.03.07(金)
文・撮影=小林禎弘