1990年代に入り、朱鎔基首相(当時)は内需に依存する経済成長を強化しようと呼び掛けた。内需のなかでもっとも可能性を秘めているのは不動産に対する需要だった。不動産開発は人々の住環境を改善するだけでなく、経済成長を押し上げる効果が期待され、いわば一石二鳥の戦略であったのだ。
しかし、不動産開発を進めるには、高い壁が立ちはだかっていた。それが土地の公有制である。国が所有する土地は自由に売買できないのが不動産開発にとっての弊害だった。その弊害を取り除くため、中国政府は日本からある重要な制度を学んだ。定期借地権という概念である。もともと中国共産党幹部の頭のなかには土地の所有権と使用権(借地権)を分ける考えがなかったが、日本には定期借地権という制度があることを偶然に知った中国共産党幹部が、同じように定期借地権を設定してそれを払い下げることで都市再開発ができると閃いた。1990年代後半から、ホテルやスーパーなどの商業用地は50年、マンションなどの宅地は70年の定期借地権が一律に設定されて払い下げが始まった。それをきっかけに都市再開発・不動産開発は一気にブームとなっていった。
マンションなどの不動産開発を進めれば、その地域の商業施設も整備される。地方政府は土地の使用権を払い下げて得られた財源をもって、地下鉄などの都市交通システムを整備できる。一石二鳥どころか、実に一石多鳥のゲームである。これこそ、中国政府が不動産開発を熱心に推進する強いインセンティブとなっている。コロナ禍が到来する前、家具などの関連ビジネスを含めた不動産関連産業は、中国のGDP全体の約3割を占めているといわれていた。
中央政府にとっての不動産開発は経済成長を牽引するエンジンだが、地方政府はそれに便乗して、「融資平台」(platform)と呼ばれる投資会社(日本の第三セクターのようなもの)をたくさん設立した。これらの投資会社は地方政府からサポーティングレター(暗黙の保証)をもらって国有銀行から巨額の融資を受けると同時に、社債を発行している。社債発行で調達された資金は、都市インフラ整備、市庁舎の拡張と不動産開発への投資へと回された。不動産バブルが崩壊した今、これら「融資平台」の多くはすでに債務超過に陥っている。地方政府は自らが設立した「融資平台」を救済したいだろうが、その地方政府の財政も赤字に転落している。彼らの運命は、中央政府が救済するかどうかにかかっている。
2024.05.21(火)