ここまでの仕打ちにもかかわらず、中国人は賃貸で家を借りるよりも、マイホームを購入することに執着する。そのため中国の不動産市場は、取引の量では飛躍的に拡大しているが、構造的に著しく歪んでいる。

 なぜ中国人はマイホームにこだわるのか。それには2つの理由がある。1つは賃貸で家を借りた場合、せっせと家賃を払っても、退去時に自分の手元に1人民元の財産も残らないということだ。中国人の価値観からすると、なんとなく損したような気分になる。要するにマイホーム購入は、住むための手段を確保するというよりも、財産を蓄えるためという側面が大きいのだ。もう1つは、信用の問題だ。賃借契約が成立するための条件は、貸すほうと借りるほうの両方が、きちんと契約を履行することである。しかし中国社会では、契約をきちんと履行すべきという文化は十分に定着していない。トラブルを回避するためにも、マイホームを購入したほうがいいと考えられているわけだ。

不動産開発は一石二鳥の戦略だった

 中国政府も不動産開発を熱心に促進してきた。その理由を知るために、まずは中国の経済発展モデルと政府の経済政策を概観しておく必要がある。そもそもの始まりは、1978年に始動した改革・開放政策だ。それ以前の中国経済は毛沢東時代の計画経済の失敗により破綻状態にまで陥っていたが、最高実力者となった鄧小平は大きく方針転換。段階的に経済の自由化を進め、外国企業の対中直接投資を誘致した。この政策の真髄は、中国国内にある大量の廉価な労働力を外国資本と組み合わせ、廉価な商品を大量に生産・輸出して外貨を獲得することだった。

 この輸出依存のモデルは比較優位戦略と呼ばれる政策だが、輸出製造業の伸長は間違いなく中国経済の飛躍に大きく貢献した。一方、輸出促進を偏重する政策をとったことで国内市場の発展は遅れ、とりわけ都市インフラ整備は諸外国に著しく後れを取っていた。いかにして都市再開発を進めるかは中国政府の長年の悩みだった。しかも、輸出製造業に依存する経済成長は輸出先市場の景気循環に大きく左右される弊害がある。

2024.05.21(火)