土地使用権の払い下げにおいてガバナンスが利いていないと、地方政府とデベロッパーによる不正が横行する。こうした不正は賄賂をもらう側にとっては機会コストが安いが、最終的なツケは不動産、すなわち、マイホームを購入する消費者が払うことになる。先ほどのエピソードは不動産開発が始まった初期のケースだが、時間が経つにつれて徐々に開発の規模が拡大し、賄賂の金額も跳ね上がっていった。近年は直接現金を渡す代わりに、開発されたマンションのカギと権利書を渡すケースも増えた。逮捕された共産党幹部とその家族が所有するマンションや別荘の戸数は、何十、何百という数になっている。
最近になって、デフォルトを起こした大手不動産デベロッパーの経営者や創業者たちの生活がSNSなどで暴露されるようになった。その贅沢三昧ぶりは想像を絶するものだった。彼らは中国国内はもとより、香港、アメリカ、ヨーロッパなどにも豪邸を所有し、自家用ジェットに乗って飛び回る。こうした生活が許されるのは、彼らが賄賂を渡した共産党幹部から保護されているからだ。不動産業界のサプライチェーンとバリューチェーンを通じて、中国社会特有の金権政治の構図が形成されているのだ。
共産党統治体制をひっくり返す要因に
「荀子」の教えに「水能載舟、亦能覆舟」(水は舟を浮かべることができるが、同時に舟を転覆させることもできる)というものがある。この言葉を今の中国の状況に当てはめると、不動産開発は中国の経済成長を牽引することができるが、同時に共産党統治体制をひっくり返すこともできる、といえる。
重要なのは法による統治の徹底と透明性の担保である。ガバナンスが利かない社会では、絶対的な権力を握る共産党幹部と役人は往々にして腐敗する。大規模な腐敗は共産党幹部と役人個人の倫理の問題もあろうが、それよりも、制度の欠陥によるところが大きいと認識すべきである。習政権にとって不動産バブル崩壊の経済危機は共産党一党独裁体制を脅かすものである。
本書では中国の不動産市場の内実だけでなく、共産党一党独裁の政治システムと経済制度の問題も解明することにしたい。
「はじめに 不動産バブル崩壊の幕開け」より
中国不動産バブル(文春新書 1452)
定価 1,100円(税込)
文藝春秋
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2024.05.21(火)