マネーゲームと腐敗の進行
中国政府は経済成長の促進と人々の住環境の改善を目的に不動産開発を奨励したが、それに関連する種々の制度設計が遅れたまま、見切り発車していった。結果として様々な弊害がもたらされたが、その1つが国有銀行と不動産デベロッパーと政府役人の癒着による腐敗の進行だ。
地方政府は土地の使用権を払い下げるにあたり入札をおこなうが、その入札が公正に行われる制度面の担保がないまま、不動産開発が進められていった。開発が進むなかで、地方政府の幹部はみるみるうちに金持ちになった。人間は金持ちになると、どうしても見栄を張るようになる。
以前、土地使用権の入札を担当する地方政府のある幹部の動画がSNSにアップされ話題になった。動画では幹部の腕にロレックスの時計が嵌められていたが、彼の給料でロレックスの腕時計が買えるはずがない。ちなみに、政府役人の給料は高くてもせいぜい1、2万人民元である。この動画によって、該当の幹部は追放され失脚した。実は、この「表哥」(時計の兄さん)は一人二人ではない。習政権になってから数百万人の共産党幹部が追放されているが、その多くは不動産開発関連の腐敗幹部といわれている。中国では、規律委員会の事情聴取を受ける幹部は、自分の預貯金などの財産の由来を明らかにする必要がある。由来を説明できなければ、不正で得たお金と見なされ、党から追放されてしまうのだ。
一般的に、土地使用権の入札には複数のデベロッパーが参加するが、どのデベロッパーが落札できるかは、入札を司る地方政府の幹部にどれほど賄賂を払うかによる。ずいぶん昔のことだが、北京に出張したとき、ある夕食会に招かれた。その夕食会には同時に、あるデベロッパーの社長も招待されていた。食事の合間の雑談で、その社長は自分の故郷の区長が捕まり、11年の刑を食らったことを明かした。保有していた100万元(当時の為替レートでは千数百万円だった)の財産について、由来が言えなかったからだ。10年以上も前のことだが、地方政府の幹部の給料からすれば100万元は大金だった。しかし、その社長は、「100万元は我々にとってはお小遣いに過ぎない。一晩の麻雀の掛け金でも100万元を超える」と自慢した。不動産開発のマネーゲームにより、共産党幹部とデベロッパーの金銭感覚は明らかにおかしくなってしまったのだ。
2024.05.21(火)