愛する人に同じことができますか? と考えてもらえたら

――石原さんは、撮影中はずっと自信がなかったけれど、得るものがたくさんあったそうですね。

 本当に学びがたくさんありました。意識しすぎたり、逆算して演じると𠮷田監督は必ずNGにするんですよ。演じることを意識しすぎないで、感情や相手に意識を向ける。そうするといろいろなことが無意識にできるようになってくる。無意識になるまで意識するというんですかね。ドキュメンタリーのように演じるとはこういうことなのかと。こうした心もちや姿勢、幅みたいなものは、絶対に今後活きてくると確信しています。

 映画にもいろんなジャンルがあるなかで、(これまで自分の出演作として)エンタメはありましたけど、𠮷田組のようにドキュメンタリーに近いジャンルには携わってこなかったので、本当に新人のような感覚で、新たなスタートを切れた気持ちです。(監督や作品など)これからもいい出会いがあればと思いますね。

――『ミッシング』は石原さんにとってどのような作品なのでしょうか。

 10年後、20年後、「転機となった作品は?」と聞かれたら、迷わずこの作品をあげると思います。映画って観るのもやるのも面白い。改めて役者をやっていきたいと考える大きなきっかけになりました。

 今こう思えるのも、7年前に監督に直談判したからであって。あの時の行動は間違っていなかったということが大きな自信になっています。自分の感性というか“勘”の良さというか、そこは大切にしていきたいし、これからも信じていけたらいいなと思います。

――『ミッシング』は子どもがいる親はもちろん、中村倫也さん演じる地元テレビ局の中堅記者・砂田や小野花梨さん演じる新人記者・三谷、森優作さん演じる人付き合いが苦手な沙織里の弟・圭吾、または観客として俯瞰して見つめるなど、さまざまな視点から、𠮷田監督の投げかける問いを考えることができます。これから映画を観る読者へ、メッセージをお願いします。

 少しだけでいいので、人に優しくなれたらいいですよね。(SNSなどで)何かを発する時、「愛する人が当事者でも同じことができますか?」と自分に問いかけてほしい。他人事じゃなくて、誰かの気持ちに寄り添う。そんなことを考えるきっかけに、この映画がなってくれたら嬉しいですね。

2024.05.16(木)
文=あつた美希
写真=榎本麻美