この顔、怒ってませんよ! 不機嫌顔の理由と驚きの必殺技
そんな、なにやら表情がありすぎるお顔の特徴にもちゃんと理由があるんです。
まず、ネコのなかでもかなり頭が大きめで、顔も平たんで幅広です。そこに、ネコの象徴ともいえるふたつの耳がだいぶ遠く離れてついています。ほぼ額の横といってもいいんじゃないでしょうか。耳の先端も三角ではなく丸みを帯びていて、印象をファニーにしているようです。
これは、見通しがよい砂漠などで岩場や物陰に隠れて獲物を狙うため。岩から耳がちょこんと出てしまっては元も子もないですよね。岩陰から目だけをそっと覗かせるためにこのような顔になりました。
また、狩りのときにはしっぽを使った作戦も。あえて獲物の前でしっぽを振り、相手を幻惑するといいます。「なんだあれは……?」と獲物が考え込んでいる隙に距離を詰め、一気に捕食するそうです。
もうひとつ、マヌルネコには必殺技があります。狩りのときではなく、イヌワシやアカギツネなどの敵に襲われたときのマヌルネコの秘策……それは岩のふりをすること。
そのモヤッとした毛色と丸みでうずくまられては、岩なのかネコなのか、確かにわかりにくいかも。マヌルさん、さすがです!
待つ、惑わす、うずくまる。生きるためのスキルにスピード感がゼロのマヌルネコ。それもまた彼らの知恵なのですね。
寒冷地で暮らすために進化した毛皮。衝撃の夏毛も公開!
毛皮もイエネコよりはるかにモフモフです。むっくりと大きく見えますが、彼らの名誉のために言っておくと太っているわけではなく、体重は3~5キログラムと、イエネコとほとんど変わりません。
大きく見えるのは、毛の長さが4~7センチもあり、さらには、その毛が1平方センチメートルあたり約9,000本も生えているから! このボリュームはネコ界でも堂々の最多です。
というのも、マヌルネコが暮らす土地はマイナス50度にもなる寒冷地。さらには前述のとおり、待つ、惑わす、うずくまるタイプですから、雪や氷の上でじっとしていなければならないこともしばしば。この全身ぬくぬくの毛皮のおかげで、深い雪のなかでも氷の上でもへっちゃらなのです。
とはいえ、夏は毛がだいぶん減り、さらには体重も落ちるため、別ネコと見まごうほどにほっそりします。
2024.04.23(火)
文=CREA編集部
写真=深野未季、松本輝一
参考文献=「野生ネコの百科」(データハウス)、「マヌルネコ」(竹書房)