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うつわのエイジングも楽しみのひとつ
今、うつわをよく買うのは日本のショップでは水道橋の「千鳥」さんが多いんです。お洒落な店内で、いるだけでも楽しいですよね。店主ご自身が料理をされる方なので、やはり料理が映える、使いやすいうつわが多く揃う印象です。生活に根付きやすいうつわというか。
日本の作家さんが作るうつわというのは、陶器を始めとしたマットな仕上がりのものが多い(もちろん釉薬をかけて違う仕上がりになるものもたくさんありますが)。それに対して、料理というのは照りを付ける、油脂を含むものをかけるなどしてヴィヴィッドに仕上がる。その対比が華やかさを生む、あるいはデザイン的な造形美を生み出す面白さがあると思っています。
また作家さんによる「一点もの」を買うって、特別感のあることですよね。気に入ったものに出合ったそのとき買わないと、もう買えない。作家さんのものをひとつ持っていると、日常的なうつわが並ぶテーブルの中でワン・アクセントになってくれます。ただナイフやフォークを使うことが多い人は、マットな質感のお皿だと相性が悪いこともわりにある。使ってみたときの感じを想像してから購入したほうがいいかもです。
ナイフやフォークで思い出しましたが、お皿は使い続けることで表情が変わる「経年の良さ」も楽しみのひとつですね。僕は人生ではじめて買ったパスタ皿を今も使ってるんですが、ナイフやフォークを使ったあとが無数に入っていて、それが表情になっている。また備前焼のうつわは使っていくうちに油分がしみ込んで、買ったときには見られなかった柄が出てくる。エイジングの面白さです。漆器類は使っていくうちに艶が出てきますしね。
うつわは「本に近い」な、とも思います。小説など、20代と40代では印象や受け止め方も変わるじゃないですか。うつわにも同様のことを思うときがあって。若いときに好むうつわもあれば、年をとって好きになるうつわもある。見た目や使い勝手だけではない面白さがいろいろとありますね。
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白央篤司
フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」がメインテーマ。主な著書に、日本各地に暮らす18人のごく日常の鍋とその人生を追った『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)、『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)がある。
https://www.instagram.com/hakuo416/
Column
うつわのある暮らし
食を彩る素敵なうつわとともに日々を過ごす。憧れるけどなにから始めたら? フードライターの白央篤司さんが、「うつわのある暮らし」を始めるヒントを探りに、うつわの専門家を訪ねました。
2024.04.25(木)
文=白央篤司
撮影=平松市聖