食べることで知り、そして癒やされる。沖縄料理の力に改めて開眼
空と海が藍色に染まり溶け合うころ、いよいよ「琉球ガストロノミア~Bellezza~」が始まる。
舞台はダイニングの館。午後の凪いだ海を思わせる、静かでエレガントな空間が私を迎えてくれた。
食事の前に沖縄料理というものを改めて思い浮かべてみた。一応、食の分野を生業としているので、多少の経験値もある。
しかし、メニューに並ぶ食材名を見て、私の沖縄料理像がいかに旧態依然であったかを自覚してしまった。
チャンプルーやシリシリといった郷土料理には馴染みがあるが、「琉球ガストロノミア~Bellezza~」のコースに登場するのは、田芋(ターンム)のニョッキ キャビア、ミーバイのカルトッチョ、牛フィレ肉の月桃包み焼きなど。
既知の単語なのに味わいの想像がつかないものばかり。
全9皿のコースはこれまで経験したことのない豊かで独創的な料理だった。
面白いのは、食材と調理法の組み合わせの妙。初めて味わう野菜やハーブ、魚介や肉類が多用されているにもかかわらず、しっかりと骨格のあるイタリアンがベースであるため、素直に味わえるのだ。
「沖縄料理は苦手」「南洋の魚介類はちょっと」という方にこそ、この感動と驚きを伝えたい。それはおそらく思い込みや過去の調理法による結果であり、創意と工夫、そしてセンスをまとわせた料理ならば極上の食体験に繫がるのだ、と。
そしてまさにそれこそ、この日私が食した「琉球ガストロノミア~Bellezza~」だった。
しかも、素直に腑に落ちる明快な美味しさのコースでありながら、必ずどの皿にも「この香りは? この風味は?」と感じさせる何かがある。
その正体は琉球のハーブや土着のスパイスなどさまざまだが、そんな楽しい「引っ掛かり」が、単に美味しいものを食べるだけではなく、シェフの思想や土地の力を感じながら料理をいただくという得難い体験にも繫がっているのだ。
そういえば、星のやが標榜するテーマとは「圧倒的な非日常」である。
これは宿泊体験すべてに踏襲されており、食もしかり。冒険家のようなワクワク感と、学生に戻ったかのような知識欲、そして癒やされたいと願う現代人の心が一気に満たされる非日常の時間を、この日の私は初めて体験した。
あらゆるホテル、レストランがある沖縄。得られるものは多種多様だが、星のや沖縄は私に新たなインスピレーションを与えてくれたのだった。
星のや沖縄
電話番号 050-3134-8091(星のや総合予約)
アクセス 那覇空港から車で約60分
料金 宿泊・1室13万6,000円~(食事別、通常2泊から)、「琉球ガストロノミア~Bellezza~」 1名2万4,200円(前日までに要予約)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyaokinawa/
Column
CREA Traveller
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2024.04.16(火)
文=山口繭子
写真=鈴木七絵