──お母さんが美少女として出てくるという…『エヴァンゲリオン』では、まだSF的な意匠で“美少女になったお母さん”ですが、今作はダイレクトに“美少女のお母さん”。

鈴木 これはですね、しょうがないというか…。宮さんが大事にしているお母さんの写真があるんですよ。それを見るとですね、美女なんです。

──宮﨑さんのお母さんが。

鈴木 ええ、それが彼には刻まれているんでしょう。彼が『美女と野獣』の図式が好きなのも、そういうことが元になっているんじゃないかな。もともとの『もののけ姫』もそういう話だったし。

──眞人のお父さんも面白いキャラクターでした。嫌な押しの強さはあるけど、完全な悪人ではない。木村拓哉さんの演技も絶妙で。

鈴木 このお父さんは生半可な人には任せられないなと思って、僕が木村さんを推薦したんです。あの演技は、宮さんも涙を流すほど喜んでましたよね。収録後、宮さんは木村さんに、お礼を言ってました。「ようやく父のことを思い出した」って。

 

──宮﨑さんが眞人として、両親と再び出会ったというか…。

鈴木 そうですね、友情物語を語りながら。…でも、もともとは違う展開になるはずでした。

──どうなるはずだったんですか?

鈴木 重要なキャラクターとして大伯父が出てくるじゃないですか。僕らはすぐわかるんですけど、あれは似顔絵です。高畑勲の顔なんです。

高畑勲の死によって宮崎駿の手は止まった

──大伯父のモデル探しもSNSで話題に上ってましたが、それは疑う余地がないぐらいはっきりしてるんですか?

鈴木 そうです。宮さんはアニメーションの世界に入ってすぐ、高畑勲に出会った。『太陽の王子 ホルスの大冒険』で宮さんを大抜擢して、今の宮﨑駿を作ったと言ってもいい存在です。その大伯父、高畑勲との話が中心になって、サギ男はもう少し軽い存在になったはずです。

──どうしてそうならなかったんですか?

鈴木 高畑さんが亡くなったからです(18年4月)。それからしばらくは宮さんの手が止まり、絵コンテの作業を再開しても、大伯父が出てこなくなっちゃったんです。大伯父との関係を描いていくものだと思ってたら、全然出てこなくなったからビックリして。で、最後のほうになったらまた出てきた(笑)。サギ男との物語に気を取られて僕は忘れていたのに、宮さんは忘れてなかったですね(笑)。

2024.03.19(火)
出典元=『週刊文春CINEMA』2023秋号