この記事の連載
- 美食都市・ドバイ #1
- 美食都市・ドバイ #2
世界屈指の大都市へと変貌と遂げたアラブ首長国連邦(以下、UAE)のドバイ。ドバイには「200Nations 1Country」という言葉があります。多様な人々が集まるからこそ、ドバイは世界の食が集まる“美食都市”。その最先端を行くレストランを紹介します。
石油の採れないドバイが美食都市になれた理由
ドバイは石油が採れない。
オイルマネーを背景に発展したと思われがちですが、ドバイは石油埋蔵量が少なく、質の良くない石油しか採油できなかった――という歴史があります。UAEは、その名の通り7つの首長国から構成される連邦国家。7つの首長国は、それぞれ独自の行政の下で政治や経済を動かします。そのため、石油が潤沢に眠っていたお隣のアブダビは、オイルマネーを手にすることができましたが、石油の採れないドバイは別の道を模索するほかありませんでした。
ドバイは、エコノミックフリーゾーンを創設することに活路を見出した結果、名だたる企業が集まるようになり、高い競争力を誇る世界屈指の都市へと成長。結果、「200Nations 1Country」と呼ばれるほど、ヒトやモノが集まるようになりました。
ドバイの金融街の中心にある、モダン・ヨーロピアン・レストラン「BOCA(ボカ)」は、「進化」という言葉がぴったりのレストラン。「BOCA」は、スペイン料理を基調としながら、地場の食材を使うことで“ドバイらしさ”と向き合っています。
「ドバイには、現代的な表現がなかった。少し遊び心があって、創造性を発揮できるレストランを作りたかった」(オーナーシェフOmar Shihabさん)。
「PURE HARVEST’S TOMATO AND STRAWBERRY GAZPACHO」で使用するイチゴとトマトは、地元UAE産のものを使用しています。国土の大半を砂漠が覆うUAEで、「どうして野菜や果物が収穫できるのか?」と思うかもしれませんが、組み上げた海水を真水に変える淡水化プラントが多数あり、その水を利用した水耕栽培が各地で行われているのです。単に美味しいだけではなく、「驚き」を与えてくれることも、現在進行形のドバイの食の面白さの一つです。
食材も環境もサステナブルに!
「BOCA」のオリジナリティは、料理だけではありません。
「廃棄物ゼロ、再生可能エネルギーのみで運営するなど、サステナビリティに配慮している点も私たちの強みです。たとえば、私たちは使用済み食用油をドバイの地元企業に送り、バイオディーゼルに変えてもらっています。そうすることで、二酸化炭素排出量の5%を削減することができます。また、「BOCA」は店内で利用するエネルギーを、すべて太陽光発電にシフトしているため、100%再生可能エネルギーで運営されています。私たちは、環境への影響を詳述した初の炭素排出のレポートも発表しています」(Omar さん)
ドバイの砂漠には、「ムハンマド・ビン・ラーシッド・マクトゥーム・ソーラーパーク」という巨大なソーラーパネル施設があります。街には送電網が張りめぐらされていて、1年分の消費電力を申請すると、その分をソーラーパークから供給されるシステムが構築されているのです。
「UAEの耕作可能な土地は、国土の5%ほどしかありません。その5%を少しでも増やすことが、私たちの小さな使命でもあります。「BOCA」は、生ゴミを含む廃棄物を大量に回収し、新しい表土を作るための堆肥にするUAEのスタートアップ企業と協力し、課題に取り組んでいる。また、店舗に廃棄物担当者という役職を設け、長期にわたって廃棄物のデータを記録しています」(Omarさん)
フードロスに対しても貪欲です。料理に使用した柑橘類の皮をカクテルのベースに再利用する、パイナップルの皮からソーダを作る……ムダをムダだと切り捨てない姿勢が通底しています。「BOCA」は果敢に新しい取り組みに挑戦することで、2022年にはミシュランと双璧をなすレストランガイド「Gault&Millau」の「サステナブル・キッチン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、その翌年には、サステイナブルな活動において最先端のレストランのみが授与される「ミシュラン・グリーンスター」も獲得しました。
「ドバイには強力な循環型の経済があります。だからこそ、我々も直線的な消費から、より循環的な消費へとシフトする必要があるのです」(Omarさん)
BOCA
所在地 GATE VILLAGE 6, DIFC DUBAI INTERNATIONAL FINANCIAL CENTRE DUBAI, UNITED ARAB EMIRATES
https://boca.ae/
2024.03.05(火)
取材・文・写真=我妻弘崇