この記事の連載

犬山紙子さん[イラストエッセイスト]

Q1:夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品は?

●『月出づる街の人々』酢豚ゆうき/双葉社

 「異なる種族のモンスターたちが一緒に暮らす世界。見た目も力も特性もバラバラ。それでいて優しい世界なのは“この種族が偉くて、この種族は劣っている”という描写がまったくないから。特性を全然違うキャラクターたちにすることで、心の繫がりがより伝わってくる表現は見事です」

●『ダイヤモンドの功罪』平井大橋/集英社

「感情と感情のぶつかり合いが至高。運動の能力がずば抜けているせいで、自分は友だちと楽しく野球をしたいのに自分のせいで負ける人や夢を諦める人がいる。その孤独にスポットライトが当たっています。大きな才能に対し、悔しい思いをしてきた人にとっては身をえぐられるような読書体験」

Q2:人生で影響を受けたマンガは?

●『東京ガールズブラボー』岡崎京子/JICC出版局

  両親の離婚で母とともに憧れの東京にやって来た金田サカエは、同じ高校に通う島野夏美と高田美夜子と出合い、東京を知ってゆく。

「主人公のおしゃれ命のサカエは田舎から東京に引っ越してきた高校生の女の子。親友となる東京育ちのなっちゃん、みやちゃんとの文化資本の差が当初エグいわけですが、そんなの吹き飛ばすサカエの“欲”と“おもしろ”に、田舎に住んでいた思春期の私は“最高”と目をハートにしておりました。サカエがすっとバージンなのも、『くちびるから散弾銃』で20代になっても仲良くしている姿が最高です。安野モヨコ先生が岡崎先生のアシスタントをされていたこと、そしていま現在『後ハッピーマニア』が楽しませてもらっていることに歴史を感じます」

Q3:夜ふかしマンガの楽しみ方は?

「週に2・3回、新幹線の往復があるので、基本新幹線でたこ焼きとか天むすとかその土地のおいしいものをつまみながら読んでいます。夜ふかしとなると週末の夜、エアロバイクを漕ぎながらスマホで読みます。面白い作品は自然と漕ぐ足が止まっちゃうので運動にはならなかったりするのですが、それがまた幸せです」

Q4:いま、特に注目している作品は?

●『後ハッピーマニア』安野モヨコ/祥伝社

「最新話、最新刊が出るたびに女友だちと盛り上がれるって本当に凄いことだと思います。アラフォー、アラフィフの女性のシリアスな事情をコミカルに笑わせながら、フクちゃんとの友情を中年になったいまも見られることに喜びを感じます。以前はフクちゃんとシゲタふたりとも独身女性で彼氏を欲しがっていたけれど、いまは属性も収入もガラリと違う。それでも続く友情は、王子様が迎えに来てくれる物語よりずっとずっとロマンチックで胸がときめくのです。最新刊で、ふたりの友情が続くことへの言及があったことも凄く嬉しかったです」

Q5:注目している新人作家とその作品は?

●『君と宇宙を歩くために』泥ノ田犬彦/講談社

「まだ始まったばかりですが、これまでマンガで言語化されていなかった、人の特性にまつわる大切なテーマを、丁寧に丁寧に描き上げ読ませ、人を断罪しない1話に涙が止まりませんでした」

犬山紙子(いぬやま・かみこ)さん
イラストエッセイスト

多くの雑誌で執筆のほか、メディアでも活躍中。ゲームやマンガなど、2次元コンテンツ好き。著書に『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ文庫)。

※推薦者のアンケート回答は2023年9月7日発表の「夜ふかしマンガ大賞2023」に寄せていただいたものです。現在とは作品の情報等が異なる場合があります。

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