翻って、昔の人たちの願い続けてきたことが、今の私たちには叶えられているのかと問われると、残念ながらそうとは言えないところもありますよね。綾のように、当時の世間一般の『物差し』の範疇からは外れた人、道なき道を自分で切り拓いて生きる人を描くことで、現在にも地続きの話になればいいな、と思いました」 

『らんまん』の登場人物たちは誰しもが物語の中で活き活きと生き、その人らしい言葉を発する。聞こえてくる台詞はシンプルでわかりやすいのに、言葉のひとつひとつが磨き抜かれていて、本質的で、心のど真ん中に届くようなものが多い。こうした台詞群はどのようにして生まれたのだろうか。

「これはもうひとえに、演劇の稽古場で培ってきたこと、肝に銘じてきたことの集大成だと思います。私は常々、『俳優がtrust(信用)を失わない言葉』を書きたいと思っていまして。俳優が実感をともなって言える言葉、上滑りせずに、全体重を乗せられる言葉というものを心がけて紡いでいます。

 言葉数が多すぎると芯が失われ、かといって足りなくてもいけない。その人物がどんな人間であるかは、『どんな言葉を使っているか』で切り出していくしかない。台詞は、その人物の形を彫り込んでいく彫刻刀のようなものだと思います。登場人物が生きるための『言葉』──私自身、痛い思いをしながら身につけてきたことです」

「すべての登場人物が、最後まで自分の冒険を続けていきます」

 物語はいよいよ大詰め。最後に、視聴者へのメッセージを聞いた。

「このドラマには、槙野万太郎が生きとし生けるものすべての、ありのままの特性を見つめて、その特性を愛し抜くという眼差しが、全編に貫かれています。植物がそうであるように、自分で選んだ人生を咲き誇っていこうとする人たちの物語。すべての登場人物が、最後まで自分の冒険を続けていきます。万太郎と寿恵子、それから周りの登場人物たち、それぞれの行方を、最後まで楽しみに見守っていただけるとうれしいです」

2023.09.24(日)
文=佐野 華英