(2)業績を表した植物

 万太郎の業績となる植物を、そのままサブタイトルに持ってきた週も数多くありました。第15週『ヤマトグサ』、第16週『コオロギラン』、第17週『ムジナモ』など、中盤の業績ラッシュではこのパターンが続きました。こうした“物理的”なサブタイトルがつく週は、その代わりに人間関係の綾で、その週のテーマに到達するように心がけました。業績自体がメインではなく、人間関係を描ききったうえでの、最後にもたらされるものとして、植物を機能させたかったので。

(3)自由度の高い植物

 私が『こういう文脈で使いたい』というのがはっきりしていて、『文脈に合うもので、今用意できるものは何ですか?』というオーダーを、植物チームにお願いするパターン。たとえば、愛娘の園子が夭折してしまう第18週の『ヒメスミレ』は、

・小さな子どもの目線の範囲に咲く花
・長屋の中庭にも自然に咲くようなもの
・人々にとって身近な花

 という条件を満たし、なおかつ、撮影の時期に用意できるものということで、候補に挙がった中からチョイスさせていただきました。

 

 この先、関東大震災が起こるのですが、未曾有の災害に襲われ荒野と化した東京で、それでも咲いている、生命力が強い小さな花で、9月ごろが花期の、今レプリカが作れるもの、というお願いをして決まったのが『ムラサキカタバミ』でした。

 こんなふうに毎週、私が文脈的に求めているものと、植物チームが現在用意できるものとのせめぎ合いが繰り返されていました(笑)。

 実は、第8週は最初『カガリビソウ』というシクラメンに似た花をサブタイトルとして、まるまる1週間分を書き上げたんです。牧野富太郎さんの自伝に、東京に来て教えてもらった植物が『カガリビソウ』だったとの記述があったので、その話をモチーフにして。

 ところがこの花が撮影の時期に合わず、手に入らなかった。では、今の時期からレプリカを用意できるもので他にどんな選択肢があるのかと尋ねたら、シロツメクサ一択だと(笑)。植物が変わると文脈も変わるので、1週間分書き上げていた台本を全部捨てて、新たにストーリーを組み直して『シロツメクサ』として書き直しました」

2023.09.24(日)
文=佐野 華英