「7年前からテレビドラマを書き始めて、書くからにはいつかは『朝ドラ』を書いてみたいという夢がありました。でも、ただの夢ですよね。だから、最初にお話をいただいたときは驚きと喜びがとても大きい反面、とてつもない重圧でした。連続ドラマでは5話までしか書いたことのない私にとって、130話のドラマというのはまったく未知の世界でした。

 毎日15分×半年間という長丁場の朝ドラは、『人の暮らしと共にある番組』であるという思いが強くありました。ひとつのテーマ、ひとりの人物を、こんなにも長い時間をかけて、ていねいに追っていける『枠』はほかにありません。書き手として本当に幸せで、貴重な機会をいただきました」

 

牧野富太郎をモデルにした理由は

 企画の最初の段階では、スタッフ同士のディスカッションで様々なアイデアが出たという。「日本植物学の父・牧野富太郎氏をモデルに」という案はその中のひとつで、長田氏が持ち込んで強く希望し、最終的にこの案に決まったのだという。なぜこのテーマで書きたいと思ったのだろうか。

「牧野富太郎さんという草花を一生涯愛した人物が、人を集めて関係性を構築し、ネットワークを広げていく。その『広場』としての機能がすごく有効だと思ったからです。植物に人生を捧げるという『一直線』は、主人公の人生としてはすごくシンプルですけれど、植物をフィールドとすると、何を呼び込んでも大丈夫だろうな、という感覚がありました。

 懐が深く、間口が広いのが、『植物』というテーマの魅力でした。あらゆる人、こと、ものに結びつけることができるんですね。半年間の朝ドラを書くという作業は、『後半に書くことがなくなるんじゃないか』という恐怖と常に隣り合わせではあったんですが、最後まで書きたいことが絶えなかったのは、ひとえに何でも呼び込むことができる『植物』というテーマだったからだと思います」

語り部としての「植物」

『らんまん』というドラマはどのエピソードをとっても、登場人物たちの人生や生き様が「植物」という主題と絶妙に絡み合っている。植物が人間を寓意しているともとれるし、人間とて植物と同じ自然界の一要素なのだと解釈することもできる。また、植物が「語り部」として観る者を物語の世界にいざなっているようでもある。こうした作劇も、やはり主題の「間口の広さ」ゆえなのだろうか。長田氏は語る。

2023.09.24(日)
文=佐野 華英