「何でも呼び込めるからこそ、すべて呼び込もうと思いました。時代における問題点や、男女の価値観、身分差、それから、諸外国と日本の関係性であったり。植物という、地面に根差したものをキーアイテムにするからこそ、そこからどんな層も、どんな事象も見渡すことができる。マルチな視点のとり方ができるだろうな、という期待がありました。
固い種から芽吹いて、重い地面を突き破り、花を咲かせて、葉を落として、最後に種を残して、次の世代へとつないでいく……というライフスタイルが、もともと植物には備わっている。命の始まりから終わりまでが、すべて内包されているんですよね。だから、それが時代にも当てはまるし、人の一生にも当てはまる。万太郎も周りの人物も、植物と同じで、絶えず『変化』を続けています。その人自身の変化、関係性の変化。それらを、植物ごしに見つめながら描いています」
サブタイトルへの強いこだわり
毎週のサブタイトルである植物の名前も、この物語を彩る大事な要素だ。筆者が本作の制作統括・松川博敬氏にインタビューした際、「毎週サブタイトルを植物の名前で縛るとなると、かなり大変な作業になってくるのではないか」と懸念したと語っていたが、何としても植物の名前で通したいという、長田氏の強いこだわりがあったようだ。
「万太郎が生涯をかけて植物図鑑を作る物語なので、最終回まで見終えてすべてを見渡したときに、週タイトルも含めて植物図鑑のようになっているといいな、と思ったんです。『らんまん』は植物学者の物語ですが、植物を発見するだけの話にすると、その時点で植物に興味がない視聴者は飽きてしまう。植物と人間を結びつけていくという構想は、企画のかなり初期の段階からありました。サブタイトルのつけ方には、大きく分けて3通りあります。
(1)人間と結びつく植物
第1週の『バイカオウレン』は、母・ヒサ(広末涼子)との思い出であり、万太郎の原点。このあとのどこかの週で登場する『スエコザサ』は、愛妻・寿恵子(浜辺美波)への感謝の気持ちを表した植物です。また、キャラクターを象徴するというやり方もありました。第5週の『キツネノカミソリ』は、万太郎と綾(佐久間由依)に『自由』を教えた活動家・早川逸馬(宮野真守)の魂のように、燃えるような朱色。こうした、人との出会いを印象的に彩る役割としても植物を使っています。
2023.09.24(日)
文=佐野 華英