向井くんと偶然知り合って恋愛の相談相手となる坂井戸洸希を演じる波瑠や、向井くんの妹・麻美役の藤原さくらなど、俳優の熱演が光る本ドラマだが、なによりすごいのが、赤楚演じる「向井くん」の「いるいる、こういう人!」と共感させる力だ。
「逃げ恥」に描かれる“結婚”との違いとは?
なぜ「向井くん」はリアルなのか? なぜ、強い共感を呼ぶのか。それは、現代において、「モテるからといって、結婚に結びつく恋愛ができるわけではない」という問題が浮かび上がってきているからだ。このドラマは「モテるからといって、結婚できるわけじゃない」という、現代特有の問題を扱っている。
たとえば、2016年に放送されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、「草食系男子」の津崎平匡(星野源)と、職がない森山みくり(新垣結衣)の契約結婚の物語だった。このドラマの面白さのひとつは、「草食系男子」=つまりモテないし恋愛に興味もない男性と、いかに円滑な結婚関係を作り上げるか、という主題にあった。
ワンナイト相手からプロポーズ、元カノとは何度もキスを重ね…
一方、向井くんは決してモテないわけではない。行きつけのお店でアルバイトをする年下の女の子から積極的にアプローチされたり、かつていわゆる“ワンナイト”と思しき関係を持った相手から「結婚してみませんか?」とプロポーズされたり、10年前に別れた元カノには再会直後に自宅へ招かれ、復縁を果たしている。ちなみに赤楚演じる向井くんと、生田絵梨花が演じる元カノ、藤堂美和子が何度もキスを重ねるシーンはネットでも話題になっていたが、そのやりとりがごく自然に見えることからも“モテる側”の男性であることがよく分かる。
女性からモテるはずの向井くん。では、彼はなぜ結婚に至らないのだろうか。それは彼が、「自分がどういう結婚をしたいのか」を言葉にしないからだ。
「向井くん」は、会社で先輩に可愛がられそうな、とても素直な人間である。
2023.09.20(水)
文=三宅 香帆