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日本のパンダ観覧列と違う

 和花の観覧で1~2時間並ぶことは、事前にウェイボーを検索して知っていました。でも筆者は上野動物園のパンダの観覧列で、この程度の待ち時間ならしょっちゅう経験しているため、余裕だろうと甘くみていました。

 上野動物園のパンダの観覧列は、並ぶ場所が広く、周囲の人との間は適度に空いています。途中でトイレに行きたくなったら、前後の人に声をかけて列を離れ、すみやかに元いた場所に戻れば問題ありません。その一方で、割り込みや途中合流(例えば3人のうち1人が観覧列に並び、ほかの2人は後で合流すること)は禁止されています。

 ところが和花の観覧列は違いました。道幅が狭いので、横に5人ほど並ぶと一杯になります。周囲の人とのすき間はほとんどなく、満員電車に乗っているようでした。トイレへ行くために列を離れ、元いた場所に戻るなんて無理。さらに、後ろから来て、平然と割り込む人もいました。

 このような状況でとても蒸し暑い中、一人で行列に並び続けました。ときどき拡声器を使った中国語のアナウンスが聞こえます。筆者は中国語を聞き取れません。対面での会話と違い、ふいに流れるアナウンスはアプリによる翻訳が難しいので、周りの人たちの動きを観察して、同じように行動しました。スリにも気をつけました。

 こうして心身ともにぐったりと疲れながら並んで、2時間近くが経った頃、観覧エリアが見えてきました。観覧者は、前から30人ほどで区切られてグループとなり、グループごとに観覧エリアへ移動します。観覧時間は約3分です。

 いよいよ筆者の番が来ました。グループ内の最後尾に近かったので、観覧エリアに着いた時は、見やすい場所がすでに人で埋まっていて、少し残念に思いながらも、目を凝らします。すると、遠く離れた壁際で1頭のパンダが寝ていました。顔は見えません。

 もう1頭は、そのパンダに向かって歩いていましたが、途中でUターンしたので顔が見え、和葉だと分かりました。ということは、奥で寝ているのが和花です。和葉は観客の前に来た後、茂みの奥へ去って、姿が見えなくなりました。

 和花の顔が見えなかったので、予定を変更して6月13日(火)の午前も成都基地へ行くことにしました。この日もとても蒸し暑く、少し歩くだけで汗だくになりました。でも6月11日(日)より早い時刻から入口前に並び、早く入場できたため、和花の観覧列に並ぶ時間も短くて済みました。

 観覧エリアへ移動すると、目の前に和花がいました。ふっくらとした顔で、短めの後ろ足を前に出して座っています。あまりの愛らしさに、筆者も周囲の観客もシーンとなって和花を見つめ、撮影しました。すると突然、バリッと大きな音が。和花が竹を割ったのです。その瞬間、観客から「おおーっ」と小声で歓声があがりました。

 観覧を終えると、観客は皆、とても嬉しそうで、撮ったばかりの和花の写真を見せ合うなどしていました。筆者も幸せな気持ちになりました。

同い年のパンダにリンゴを横取りされる

 和花の特徴は、かわいらしい容姿とゆっくりとした動き。成長が遅めで、同い年のほかのパンダよりも小柄です。和葉と並んだら親子に見えることもありますが、身体に問題があるわけではないそうです。

 和花はかつて、同い年の3頭のパンダと一緒に暮らしていました。和葉と、和花より1カ月ほど早い2020年6月5日に生まれた潤玥(ルンユエ)と艾玖(アイジウ)です。和花は、このパンダたちと遊ぶ一方で、好物のリンゴやタケノコを横取りされることもありました。でも和花はほとんど抵抗したり争ったりせず、おっとりマイペース。そんなところも多くの人を魅了しています。

 さらに、和花がなついているベテラン飼育員の譚金淘さんもファンの間で大人気。譚さんは和花によく「果頼(グオライ)」と呼びかけています。日本語で「おいで」といった意味です。和花は譚さんの「果頼」に反応して、トコトコと駆け寄ります。

2023.08.24(木)
文・撮影=中川美帆