僕が『室町無頼』を書こうと思った直接の理由は、比叡山が金貸しをしていたと知ったから。やっぱりショックじゃないですか。何をやっていたかというと、自分たちが金主になって街金にお金を貸すんです。比叡山と街金で年利ほぼ100%という結構えぐいことをやって、そんなの返せるはずがないから子供をとられたりする。「神様から借りたお金なんだから返すのが筋だろう」みたいなことがまかり通っていたんです。それを知った時、あの時代の話を書けば現代の話になると思いました。

 それと、室町時代は政治と武家の中心が京都に一極集中しているので、今の東京と一緒だなと思ったんです。地方で食えなかった人間が都に出てきてマネーゲームであえいで、セーフティネットから落ちこぼれていく。というような状況の中で「やってらんねえ」という人間が出てきて、寛正の土一揆が起こった、という話です。

 

「歴史小説を書きたいというより…」

――これからも歴史小説を書いていくご予定ですか。

垣根 歴史小説を書きたいというより、書きたい人がいたら書きたい、という感じです。最初に「何々を書きたい」というのがあれば、「じゃあそれを書くためにどうすればいいだろう」と、頭が回り始めるので。

――今、書きたいものはありますか。

垣根 多少はありますよ。今も書いていますし。もし書きたいものがなくなったらどうしようかと思う時もありますが、それはそれでいいのかと思います。僕が書きたいことを書かないと、読んでいる人も面白くないだろうし。書きたいものがなかったらずっと寝て暮らして、てれんぱれんして遊んでいたい(笑)。

――ところで、『ヒートアイランド』シリーズの続篇は書かないのですか?

垣根 あのシリーズはヤクザから上前をはねようとする裏金強盗の話ですけれど、今の時代、まあ難しいんですよ。日本という国にお金がなくなって、ヤクザが貧乏になって、裏金というのがほぼ存在しない世界になっていますからね。ただ、まだ裏金強盗のリーダーの柿沢という人間の内面を一回も書いていないんです。柿沢の内面を書く時が最後だと思っています。あらかた設定はしてるんですけれど、いつ書くのかな、という感じです。

――今後の刊行予定などは。

垣根 今は『武田の金、毛利の銀』という、『光秀の定理』のスピンオフみたいなものを書いています。それと「週刊ポスト」で『蜻蛉の夏』という、止観という瞑想法を使う若者たちの話を連載しているところです。

2023.08.01(火)
文=瀧井朝世