ただ、人に対して「薄い」と言うのは小説の表現方法としていただきたいなと思って、今回使っています。この本の中で、「万民が担ぐに足る神輿というものは、その中身が軽ければ軽いほど、薄ければ薄いほどいいのだ」って書いてます(笑)。
「ここにはいられない」と思った中学時代
――薄いですかねえ。以前おうかがいした、垣根さんが中学生の時に「勉強しよっかな」と思い立ったエピソードが印象に残っています。
垣根 ああ、正確には「ここにはいられない」と思ったっていう話ですよね。中学生だった頃、地元がめちゃめちゃ荒んでいて、卒業して高校生になったやつらが中学の校庭に単車で来て乗り回して、周りがヒューヒュー言っていて。それを見て、「ここにいたらやばいな」って思ったんです。いつか地元を離れようと思った。それで中2から中3にかけてすごく一生懸命勉強しました。その後はあんまりしなかったんですけれど。
――大学進学で地元を離れ、卒業後東京で大手に就職して。
垣根 何も考えてなくて、最初に内定をくれたリクルートに就職したんですよ。そこで、広告を作る仕事に就いたんですが、何もできなかった。あの時に、方向性がある奴とない奴の差は一生埋まらないと思いました。自分のボンクラさを自覚したんです。「お前、大学4年の間にやりたいことを一個も見つけられなかったのか」と思いました。
――その時に、「このままじゃ駄目だ」と思って、猛烈に読書を始めたんですよね?
垣根 そう、仕事をしながら1日1冊、2年間で700冊読みました。
――その後、転職もされたそうですが、小説を書き始めたきっかけというのがこれまた印象に残っていて……。
垣根 93年頃にゆとりローンを組んでマンションを買ったんですけれど、それが5年後からパーンと返済額が上がる仕組みだったんです。でもどんどん景気が悪くなっていって、給料がガンガン下がっていって、計算したら繰り上げローンが始まる時点で俺は破産する、と分かったんです。「やべえ」と思って何かやろうとして、小説はもともと好きだったので、書きました。
2023.08.01(火)
文=瀧井朝世