作家・川上未映子さんが雑誌「Hanako」にて12年ものあいだ綴り続けてきたエッセイ連載「りぼんにお願い」。245回にもおよんだ連載の中から、厳選した80のエッセイをまとめた『深く、しっかり息をして 川上未映子エッセイ集』が刊行されました。2011年から2022年。世界だけでなく、川上さん自身の環境も目まぐるしく変わる中で書かれた文章は、まるで読者へのエールのようです。

 文藝賞作家の安堂ホセさんに、川上さんの創作のコアになるものや、この12年間の心境の変化について伺ってもらいました。


「明朝体だと面白いエッセイは書けない」

安堂 川上さんの小説を読んで、小説家になろうと思ったので、今日は憧れの人に会えて本当に緊張しています。さっき「イチローに会えた野球少年みたいだね」って話してたんです。

川上 まさかまさか、とんでもないことです。緊張なんかなさらないで、リラーックス!(笑) それに、才能がある人たちは今はもう他の業界にいくと言われているのに、よく小説を書いてくださった、という気持ちですよ。

安堂 いや、川上さんの詩集や小説を読まなかったら、たぶん小説家になろうなんて考えもしなかったと思います。

川上 なんと……若い書き手のかたにそんなふうに言って頂けて光栄です、というより、恐縮してしまいますね。ありがたいです。

安堂 川上さんのエッセイって、川上さんのおしゃべりに参加しているみたいな気持ちで読んでいる人ってたくさんいると思うんです。川上さんにとってエッセイってどういう存在なのかすごく知りたいです。

川上 エッセイや日記調のものって、読むのも書くのもすごく好きです。書くときにも、いろんなムードがありますよね。発表媒体はもちろん、文字数とか文字組によって、文体も変わるんですよね。また、横20文字、縦20文字で書くのか、横20文字、縦40文字で書くのか。それによっても影響されるんです。あとフォントも重要! 太めの明朝体とかで書くと、軽みのあるエッセイを書けない気がする……。

安堂 わかります!

川上 小説はクレーというフォントで書いてます。クレーで書いていると、なんか文章が、こう、しゅっと上手くなった気がするんだよね(笑)

 「Hanako」の連載では、少し下の世代の女性たちに「こういう話あるんだよね!」みたいな気持ちで書いてたように思います。だから、すごく楽しかったって印象しかないんです。「今日なに書けばいいのかな」って悩んだこと一度もないんですよ。

安堂 すごい……。

川上 もう、いつでも話すことたくさんって感じで。楽しい場所をいただいているって気持ちだったなぁ。

2023.07.25(火)
文=CREA編集部
写真=平松市聖