●“土地と音楽”を軸にジャンルを超えた独自の作風

――続く『TOURISM』はシンガポールを旅する大和出身の少女たちを描いたハッピーなロードムービーでした。

  『大和』を出品したシンガポール国際映画祭のディレクターから、いきなり連絡があって、「国が支援するアートサイエンス・ミュージアムで、現代アートの展示会をやるから、何かやってくれないか?」と声をかけられたのがきっかけです。シンガポールはプラスティックで人工的な景色の外側にある、昔の街並みが興味深かったので、そこを撮りました。作品は全面的に支援されて、パーティでもセレブ対応されたり、またも宝くじに当たったような感覚で映画を撮ることができました。

――そして、大阪を舞台にネット社会の恐ろしさをモノクロ映像で描いたスリラー『VIDEOPHOBIA』を手掛けられます。

 関西の自主映画界を盛り上げている西尾孔志監督との出会いがきっかけでした。大阪で活躍されているラッパーJin Doggさんも好きでしたし、「今度は大阪を舞台にした映画を撮りたい」という話をしたところ、西尾さんが教員をされているおおさか映画学校や、ミニシアターの第七藝術劇場さんなどに協力してもらうことで、話がどんどん進んでいきました。それに、映画美学校時代の同級生たちも出資してくれましたし、宣伝費はクラウドファンディングで集めました。企画の通し方や製作費の集め方については、『大和』と『TOURISM』での経験によって、プロデューサー目線みたいなものを養うことができたと思います。

――舞台になった大阪・鶴橋の魅力、そして、あえてスリラーというジャンルに挑んだ理由は?

 コリアンタウンがあるので、いろんな人種が集まり、文化が混じり合っているところが大和やシンガポールに近くて、個人的にすごく落ち着くんです。焼肉やキムチが美味いだけでなく、隣の桃谷は古い日本家屋が多い場所で、このあいだを行き来すると、映画的に面白く見えるんじゃないか?と思いました。美学校時代に、古典的シネフィル教育の影響をモロに受けて、長編デビュー作を撮ったとき、「これを繰り返すだけでは、一定の客層にしか届かない」と思ったんです。それで、あまのじゃくな性格もあって、『TOURISM』で自由にやることで、シネフィル映画からの脱却を試みたんです。だから、シリアスで怖い方向性で行こうかと。大阪をモノクロで撮るのも意外性を狙いましたね。ジャームッシュ好きなのに、M・ナイト・シャマラン監督やデヴィッド・クローネンバーグ監督の無機的な感じも好きなんですよ。

2023.07.21(金)
文=くれい響
写真=細田 忠