●「明るさ」と「暗さ」のあいだ

――監督最新作『PLASTIC』の舞台は名古屋で、今度のジャンルはロックを題材にした青春映画です。

 ロックは僕の音楽の原点ですし、以前からミュージカルっぽい音楽映画をやりたいとは思っていました。加えて、去年から名古屋学芸大学で授業を持たせていただいていることもあって、名古屋を舞台にした映画の企画をいただいたんです。名古屋は中心部を離れたときの独特な寂しさがあり、そこが印象的でした。また、ジョン・セイルズ監督の『ベイビー・イッツ・ユー』やジョン・ヒューズ監督の『ブレックファスト・クラブ』のようなアメリカのハイスクール映画が好きで、日本でそういう青春映画を撮ってみたい気持ちが強くありましたし、色彩的には『VIDEOPHOBIA』の真逆を狙いたいと思いました。

――そして、昨年亡くなられた青山真治監督への強いリスペクトも感じられます。

 じつは僕の映画人としての最大の目標で、誰よりも尊敬する方である青山さんとは、あえて自分なりに適切な距離をとっていたんです。美学校時代に、青山さんのシナリオチームの方に誘っていただいたときもお断りしましたし。今回は偶然にも配給会社にしろ、プロデューサーにしろ、青山さんに近い方々によって作られた作品で、劇中には青山さんの『サッド ヴァケイション』も出てきます。でも、僕自身は「これからも変わらぬ強いリスペクトを抱きながら、自分が出来ることを地道にやっていくことで、青山さんの表現が僕の人生に与えてくれた多くのことに恩返し出来たらな」と思っています。

――初秋には玉城ティナさんがインフルエンサーを演じるノワール『#ミトヤマネ』が公開予定ですが、今後の展望や希望を教えてください。

 僕の映画って、『TOURISM』や『PLASTIC』のような「明るい宮崎映画」と『VIDEOPHOBIA』のような「暗い宮崎映画」があると思っていて、企画書も2つのファイルに分けているんです。『#ミトヤマネ』はプロデューサーから「暗い宮崎映画」を求められて、プレゼンした企画ですが、これまでになく予算面でもスケジュール面でもやりやすかったです。2023年の自分は『PLASTIC』と『#ミトヤマネ』がクロスした場所にいる感じですが、今後は毎年のように、その両方をやっていけたらいいですね。それに、そろそろ全編英語の作品も撮りたいです。

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宮崎大祐(みやざき・だいすけ)

1980年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学卒業後、映画美学校を経て、フリーの助監督として活動。2011年に、『夜が終わる場所』で長編映画デビューし、『大和(カリフォルニア)』(2016年)、『TOURISM』(18年)、『VIDEOPHOBIA』(19年)といった唯一無二の世界観の作品を手掛ける。今秋には『#ミトヤマネ』が公開予定。

『PLASTIC』
2023年7月14日(金)より名古屋・伏見ミリオン座にて先行公開中、2023年7月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開

2018年、名古屋。1970年代に世界を席巻するも瞬く間に解散したアーティスト「エクスネ・ケディ」の音楽を愛するイブキ(小川あん)は、同じくエクスネ・ケディのファンでミュージシャンとして東京進出を夢見るジュン(藤江琢磨)と出会い、恋に落ちる。そんな2人の出会いから4年後、エクスネ・ケディ再結成ライブが東京で開催されることになる。
http://plastic-movie.jp/

Column

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2023.07.21(金)
文=くれい響
写真=細田 忠