なお、著者が東京(江戸)の都市計画を題材に綴った作品は他にもある。駿府から江戸に国替えさせられた徳川家康が後の世でいう「都市開発」に挑む『家康、江戸を建てる』(二〇一六年二月刊)、明暦の大火で灰燼と化した江戸を建て直す任を担った老中・松平信綱の物語『江戸一新』(二〇二二年一二月刊)だ。ぜひ手に取って、『東京、はじまる』の物語との接続を楽しんでいただきたい。

 これから東京駅の赤レンガを見るたびに、家のくびきから脱して街を歩き出した、一〇〇年前の女性たちの姿を想起することだろう。建築は、そのような想像力のスイッチとなり得る。そして小説もまた、そのような機能を担うことができる。本書はそう証明してくれる。

2023.04.27(木)
文=吉田 大助(ライター)