19世紀の歴史家ギュスターヴ・デジャルダン(1834~1902)が著した『プチ=トリアノン歴史と詳述』によると、スープが4品(お米入り、クルトンとレタス入り)。大アントレが4品(牛とキャベツの煮込み、仔牛の腰肉串焼き)。アントレが16品(スペイン風パテ、若鶏のタルタルソース、仔兎の飾り串焼き)。前菜が4品(仔兎のフィレ肉、冷製仔の七面鳥)。焼き物が6品(若鶏、去勢鶏の衣つけ)。デザートにあたるアントルメが16点(記録なし)。コースの一部からでも王妃の夕食会の華々しさが伝わります。このなかから、「牛肉とキャベツの煮込み」を再現してみます。

 レシピは残っていないので、当時の料理文化の「いいとこどり」をしてみます。煮汁には、当時最新の味つけ素材だったフォン・ド・ヴォーをベースに、ブルゴーニュ地方の牛肉煮込みに欠かせない赤ワイン、そしてアルザスのキャベツ煮込みに必須のタイム、ローリエを使います。

 宮廷料理らしさを出すためにトマトも使います。当時、フランスでは南仏の一部と地中海に面したプロヴァンス地方とラングドック地方で、他国ではスペイン、イタリアの一部で食べられはじめたばかりで、欧州のほとんどの人がその味を知りませんでした。フランスではトマトが観葉植物から食用へと見方が変わったのが18世紀後半でした。この頃にディドロやダランベールなどの啓蒙思想家たちが編纂した『百科全書』には、「トマトの果実は熟すと美しい赤色で、酸味のある軽くてジューシーな果肉を含み、この果実をスープや様々なシチューで調理すると非常に美味しくなる」という記述が残っており、トマトの人気ぶりがうかがえます。

マグロのマリネ

 18世紀のフランスでは毎週金曜日と土曜日の2日間は断食日と定められていました。断食期間の肉食は厳禁です。王族を除いた大多数の貴族にとっては、魚の保存食は重宝されました。ニシンは燻製に、イワシは塩をして樽のなかでしめられ、タラは干物にされました。

2023.02.22(水)
文=遠藤雅司