このようにヴェルサイユには、並はずれた美食家と大食漢がそろっていました。料理人も作りがいがあったでしょう。王族たちの期待に応えるべく、フランスの宮廷料理はどんどん洗練されていきます。

味つけ革命

 18世紀のフランス宮廷の料理は、どんな点がほかの時代や地域とは違ったのでしょうか。前段として17世紀半ばに、フランス料理は中世の香辛料を多用し酸味の強い味つけから肉・魚のブイヨン(だし)を使う味つけに移行していました。 18世紀、マリー・アントワネットの時代には香辛料の供給が安定し、以前よりも価格が下がっていました。次第に、香辛料を使う目的が、味の調整へとシフトし、やがて、それまでになかった複雑で奥行きのある味つけの手法が発明されます。

 具体的にはソースが大きく進化しました。もともとはポタージュなどのスープで使われていましたが、この頃からソース単独で仕込まれるようになりました。この時期のソースには、マヨネーズソース、ホワイトソース、デミグラスソースがあります。ソースのベースになる「フォン」の原型も発明されました。仔牛を煮てつくる「フォン・ド・ヴォー」や魚介から味をとる「フュメ・ド・ポワソン」などがそれにあたります。結果として、繊細な味わいの料理文化が形成され、「グランドキュイジーヌ」と呼ばれるフランスの高級料理の骨格ができあがります。

 こうした「味つけ革命」によって、18世紀にフランス料理の多様化が進みました。たとえば、17世紀のフランス料理書に掲載されたメニューの数は約600でしたが、18世紀には2000を超えるようになります。多様化の背景には、大航海時代に冒険者たちの持ち帰った野菜が定着したことも挙げられます。さて、マリー・アントワネットや王たちが食べていた宮廷料理を再現してみましょう。

 

牛肉とキャベツのトマト煮込み

 それではお待ちかね、マリー・アントワネットの夕食会で出された料理を紹介します。会は1788年7月24日に小トリアノン宮殿で開かれました。出された料理はおよそ50品目。コースの構成要素ごとに数品ずつご紹介します。

2023.02.22(水)
文=遠藤雅司