若手の作り手たちが活躍できる場を生み出す
――これらの作品は中国市場をターゲットにしていないところからも、ラムさんの強い香港映画愛を感じることができます。
中国大陸と合作することで、予算をかけた大作が撮れ、市場を拡大し、お金は儲かったかもしれませんが、香港映画ならではの手作り感みたいなものが、どこか失われていくような気がしたんです。『手巻き煙草』は若手・新人監督を育成するために、香港政府が助成金を出した低予算作品なので、私はノーギャラで出演しました。『黄昏をぶっ殺せ』をプロデュースするときも、若手や新人にいいチャンスを提供できないかと考え、製作クルーやポスターデザインに、多くの新人を起用しました。そして、新しい血を入れる一方、ベテランと競わせることで切磋琢磨してもらいました。私は香港電影発展局の委員会のメンバーの一人ですが、そこにはジョニー・トー監督もいますし、香港自体が日々変わっているので、我々も変化していかなきゃいけないという気持ちでいます。
――2022年夏に香港で公開されたSF大作『未来戦記』(22年)は、香港映画史上No.1となる興行収入を記録。また、今回の映画祭で上映されたホームコメディ『6人の食卓』(22年)も、それに続くほどのメガヒットを記録しています。
コロナ禍の影響もあり、なかなか外出もできなくなり、映画館もたびたび休業していました。ようやく落ち着いてきたところで、観客たちは映画館で映画を観る悦びを再確認したんだと思います。2作とも、今までと違う視点で撮られた、とてもクリエイティブな作品というのも大きかったと思います。アクションやホラーといったジャンルムービーは確かに面白いですが、そればかりだと飽きられてしまうわけで、ここ数年は人間ドラマを描いた作品も増えてきました。だからといって、今後も人間ドラマばかりがいいというわけではなく、こちらも変化していかなきゃいけないと思います。一度壊して、新たなモノを作るといった反逆精神は必要なんですよ。
――ちなみに、日本では『未来戦記』は12月からNetflixでの配信。歌手アニタ・ムイの半生を描いた昨年の興行収入No.1ヒット作『アニタ』(21年)もディレクターズカット版がDisney+での配信のみになっています。このような現状をどう捉えていますか?
今の若い人たちの映像を観る習慣に合わせて配信作品が増えているので、決して悪いことだとは思いませんし、映画会社や投資者の意向が大きいので、役者としては何とも言い難いのですが、映画を作る側の人間としては、時間と労力をかけた作品が、どこかぞんざいに扱われているようにも感じます。だから、個人的には映画館に足を運んでいただいて、大きなスクリーンで楽しんでほしい。音楽の聴き方もいろいろ変わって、ふたたびレコードが流行しているように、また若い人たちのあいだでも映画館で観るのが主流になってほしいですね。
2022.11.18(金)
文=くれい響
写真=平松市聖
ヘアメイク=大橋 覚(VANESSA+embrasse)