名優アンディ・ラウ、ジョニー・トー監督から学んだこと

――さて、今年の12月には、ラムさんの出世作である『インファナル・アフェア』(02年)が公開20周年を迎え、4K版が香港で劇場公開されます。

 20年前の香港映画界の状況は、興行収入においても製作本数においても、本当に酷いものでした。「そんなときだからこそ、いい映画を撮らなきゃ!」とアンディ・ラウさん、トニー・レオンさん、メディアアジアのピーター・ラム会長らが立ち上がったところから始まった企画ですが、状況が状況だけに、投資会社はあまり乗り気じゃなかったんです。でも、映画が公開されて一変しました。潜入捜査モノですが、「どうしたら、いい人間になれるか?」と悩む男を描くという、新しい視点から物語が展開されるところも素晴らしかったと思います。私はキャリア的にまだまだでしたが、キーパーソンとなる役柄に抜擢され、いろんなことを学ばせてもらいました。それが今でも役に立っていると思います。

――そんなラムさんのキャリアを語るうえでは、事務所の先輩でもあったアンディ・ラウさんの存在はとても大きいと思います。彼から学んだことを教えてください。

 たとえば、以前『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』(12年)の出演オファーが来たときに、アンディさんに「出演すべきかどうか」相談したんです。そしたら、「この映画の脚本は素晴らしいし、絶対にヒットするから出た方がいい」と背中を押してくれました。結果、この映画はメガヒットし、金像奨でも9部門を受賞しました。このことからも、俳優は演技をするだけではなく、脚本を読み込み、いち映画人として、テーマ性や市場に与える影響力など、広い視野で映画を捉えることが大切だということを学びました。いま、自分が作品をプロデュースする立場となり、いろいろな盲点を見つけられるようになったと思います。

――そして、『エレクション』(05年)や『エグザイル/絆』(06年)などでのジョニー・トー監督との出会いも大きかったかと思います。

 トー監督からも「映画をどのように見て、どのように映画制作に取り組むのか」といったことを、たくさん学びました。例えば、「市場を意識する映画を撮るなら、スターに出てもらい、市場を意識しない映画を撮るなら、役者に出てもらう」といった考え。

 また、自分の出番がないときも、じっと黙って、監督が現場でどのようにコントロールしているかを見ることで、想像を超える、監督の思考回路みたいなものが見えてきました。ただ、監督の現場に行くときは、いつも緊張しますね(笑)。

ラム・カートン(林家棟)

1967年9月21日生まれ。香港出身。1988年、TVB(香港無綫電視)藝員訓練班第15期として芸能界入り。2000年、アンディ・ラウが創立した会社の所属俳優になり、『インファナル・アフェア』(02年)などに出演。17年には『大樹は風を招く』で、香港電影金像奨(香港アカデミー賞)において、最優秀主演男優賞を受賞。これまで100作近い映画に出演するほか、プロデューサーや脚本家としても活躍している。

2022.11.18(金)
文=くれい響
写真=平松市聖
ヘアメイク=大橋 覚(VANESSA+embrasse)