日本の映画人たちとの交流で新たな扉を

 『インファナル・アフェア』『イップ・マン 序章』などで知られる香港映画界のトップスター、ラム・カートンが2022年11月9日~13日に開催された「香港特別行政区設立25周年記念映画祭 Making Waves - Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」で来日。香港電影金像奨(香港アカデミー賞)最優秀主演男優賞も受賞している彼が、今回上映された自身の主演・プロデュース作、キャリアについてのほか、大きく変わりつつある香港映画界の現状についても語ってくれました。

――今回は主演を務めたノワールアクション『リンボ』(21年)とプロデュース・脚本を務めたブラックコメディ『黄昏をぶっ殺せ』(21年)を携えての、初の公式来日ですね。

 プライベートでは何度も遊びに来ていました(笑)。今回は香港政府の映画発展局の企画で、自分が関わった2作のプロモーションのほかにも、香港映画人の一人として、日本の映画関係者と交流することで、「今後一緒に何かできないだろうか?」ということも考えています。

――今年の香港電影金像奨において、『リンボ』と『手巻き煙草』(20年/大阪アジアン映画祭2021で上映)で主演男優賞にWノミネート。名実ともにトップスターのラムさんですが、結果的には『黄昏をぶっ殺せ』の大ベテラン、パトリック・ツェーさんが受賞しました。

 ここ20年ぐらい、香港映画界でベテランの役者が活躍する場が少なくなっていたこともあり、プロデューサー兼脚本家として、老人の殺し屋という役柄で新境地を開拓することができた『黄昏をぶっ殺せ』で彼が受賞したことは大変喜ばしいことでした。彼を口説き落とすのは容易ではなかったですし、役者の後輩としても、大先輩の受賞は嬉しかったです。だから、私がとれなくて悔しいといった気持ちは、まったくありませんね。

――『黄昏をぶっ殺せ』で描かれている高齢者問題や世代間の交流というテーマは、初プロデュース作『燃えよ!じじぃドラゴン龍虎激闘』(10年)でも扱っていました。

 なぜ、私が『燃えよ!じじぃドラゴン~』をプロデュースしたかというと、その頃、中国大陸との合作が増え始め、純粋な香港映画が少なくなっていたからです。それではなかなか発展しないし、香港で暮らしている人を励ますような元気になれる映画を作りたいという気持ちもありました。その気持ちは『黄昏をぶっ殺せ』でもありましたが、より深刻になりながらも、あまり関心を持たれない高齢者問題を中心に脚本を書き始めました。若い人たちにも、人生の先輩たちが抱えている孤独や不安を理解してもらいたいと。

2022.11.18(金)
文=くれい響
写真=平松市聖
ヘアメイク=大橋 覚(VANESSA+embrasse)