この記事の連載

 原宿に店を構える古着屋「Swell Vintage (スウェルヴィンテージ)」のオーナーである山本めぐみさん。

「売れるとか売れないではなく、自分が着たい、自分が持ちたい、そう思えるもの、わたしの“好きなもの”を集めているだけなんです」

 そう笑顔で語る山本さんのお店には、山本さんの“好き”に憧れ、自分の“好き”を見つけるために、古着初心者から洋服好きまで多くの人が訪れる。その人気はSNSにも広がり、Instagramでも華々しいファッショニスタからフォローされる山本さんはまさに古着のカリスマ的存在だ。

 山本さんが古着屋をはじめた驚きのきっかけから、洋服に込めた思い、これからチャレンジしたいことについて、ありのまま語ってもらった。

» 後篇「古着は着るだけで、らしさが出る」人気古着店主に聞く着こなし術3選おススメコーディネート解説も!を読む


企業の受付からアパレル業界へ。きっかけは保育園待機児童問題

――2013年よりオンラインストア「Swell Vintage」をオープンさせたとのことですが、どういうきっかけで古着屋を始めたのでしょうか?

 お店を立ち上げる前は、普通に就職をして企業で受付の子たちをまとめる仕事をしていました。結婚して、長男を出産したあと、またどこかで仕事を、と思ったのですが、保育園の預け先が見つからなくて。復職することができなかったんです。

 それならいっそ好きなことをしてみようと思い、ファッションが好きだったので思い切って初めてみたんです。当時、38歳だったのですが、アパレル業界は未経験だったので本当に手探り状態でした。

――アパレル業界とは無縁だったというのは意外ですね。

 よく言われます(笑)。

 一番最初は古着ではなく、本革のクラッチバッグを自分で作って、それを販売していたんです。当時、セリーヌのレザーのクラッチバッグが流行っていて、欲しいなと思っていたのですが、結構高くて。かといってちまたで売っているビニールみたいなのも安っぽくて嫌だし。それならもう自分で作っちゃおうと。同じ思いを抱えている人もいるかもしれないですし。革問屋さんを探したり、革を縫うことができるミシンを探しに電気屋さんに行ってみたり……。とにかく試行錯誤して作っていました。

 そんな中、ボーイスカウトのワッペンを参考に、古着のワッペンをクラッチバッグに縫い付けてオンラインストアで売ってみたんです。そしたら予想以上に反響があったんですよね。

 バッグを販売しているうちに、いろいろ伝手が広がって、業者しか入れない古着の倉庫に出入りできるようになって、そこで仕入れた古着も一緒に販売するようにしたんです。そうこうしているうちに、お客さんから「もっと古着を見たい」という声が増えて、いつの間にか古着屋さんがメインになっていったんですよ。

――バッグ作りが最初だったのですね。昔から古着は好きだったのですか?

 洋服は好きでしたけど、古着はそんなに意識していなかったですね。いわゆる流行っているようなファッションもしてきたし、OL時代は、ナチュラルカラーのストッキングを履いてヒールは何センチで…という職場でした。

 ただ、昔からミリタリーとかワークテイストのものが自然と好きだったんだと思います。古着の買付をするようになって、たくさんの古着に触れるようになってから、さらにその志向が強くなったというか。現地のディーラーさんの世界観が素敵で、そこに魅了されて今に至るという感じです。

今では私以上に家族が応援してくれています(笑)

――本格的に古着屋を始めるようになってから家族の反応は?

 クラッチバッグを作っていた最初のころは、バッグと一緒に指を縫ってしまったりまさに悪戦苦闘の日々(笑)。そのころは「そんなに大変なら、辞めたらいいのに」と夫に言われたりしていました。

 でも、今ではもう最大の理解者であり応援者です。夫の仕事の取引先の奥さんが私のファンだって言ってくれたり、家族で出かけているときに声をかけられたりする私の姿を見て、見直してくれたみたい。

 古着の買付に家族全員の旅行も合わせて一緒に来てくれたり、イベントの運営とかも手伝ってくれたり。なんだか私以上に楽しんでいるかもしれないです(笑)。

――Instagramのフォロワーには、アパレル業界の著名人が多い印象ですが、もともとつながりはあったんですか?

 全然です。私はかなり早いタイミングから積極的にInstagramを活用してお店の宣伝をしていたんですが、そうして投稿を積み重ねていくうちに気づいたら、という感じです。たくさんのフォロワーが私の投稿を見てくれたり、オシャレな方がフォローしてくれたり、展示会に呼んでくれるようになったり、なんだか今でも不思議な気分です。

 単なる洋服好きの一般人の私が、キラキラしている方と接しているといったいどういうことなんだろうと思ったりするときもありますよ(笑)。

古着ブームが激化する中、古着業界に新しい波が

――2020年11月には原宿で実店舗を経営するようにもなりました。山本さんの世界観に満ちた店内ですが、古着を買付するときの基準はありますか?

 古着ってこの商品売れそうだなとか思っていると売れなかったりするんです。不思議と直感で自分が好きだな、可愛いな、と思うものを仕入れると結果的にそういうのが売れていくんですよね。だから今では心が動くものだけを買付するようにしています。

 後は、古着って誰かが着ていたものなので、歴史があるんです。例えばタグに名前が書いてあったり、破れているけど裏を見るときれいにリペアされていたり。大切にされてきたんだなと感じる洋服はロマンを感じますよね。

 コロナの前はアメリカのL.A.を起点に買付することが多かったのですが、古着そのもののスト―リーだけでなく、現地のディーラーさんも個性があるので、そういう物語もありますしね。

 そういう、古着に積み重なってきた熱量が感じられるもの。そういう商品を買付するように心がけています。

2022.11.08(火)
文=桐生奈奈子
写真=今井知佑