若き日の安兵衛を描く『新説 堀部安兵衛』

 クローズアップするもう一つの舞台は博品館劇場で2022年10月20日〜23日まで上演される『新説 堀部安兵衛』。

 こちらで描かれているのは、まだ何事も成し得る前の、ぐうたらでやんちゃな浪人時代の若き日の安兵衛です。どんな内容になるのかを探るべく、特別に稽古場にお邪魔させていただきました。

 するとドアの向こうでは早くも発声練習の真っ最中。中に入ってみると下村青さんでした。聞くところによると下村さんは往年のミュージカルスターと芸者の二役を演じられるのだとか。安兵衛の物語なのに?

 実は、そのミュージカルスターも所属する七川虎之助一座が博品館劇場で上演する劇中劇として物語は展開していくのです。ひとり、またひとりと出演者が稽古場に集まって来る中でサプライズが起こりました。多忙を極める猿之助さんがひょっこり姿を現したのです。

 「間違えても本番のつもりでそのまま通してやりましょう」という猿之助さんの言葉に、演出を一任された市川青虎さんを始め、スタッフ、キャスト一同の表情が引き締まります。

 登場人物は、現代の劇場関係者だったり実は現世とは異なる時空を生きる虎之助一座の役者だったり、そこに劇中劇の人物が加わりさまざまな立ち位置がクロスしています。そして随所に笑いや心に響くセリフを盛り込みながら、有名な高田馬場での決闘のエピソードへと突入していくのです。

 キレのいい立廻りはもちろん歌舞伎独特の演技なども取り入れられ、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』や『新版 オグリ』などで舞台を共にしてきた“愉快な仲間たち”はテンポよく息の合った演技を繰り広げ、安兵衛の長屋での暮らしぶりが目に浮かぶようです。安兵衛を取り巻く個性豊かな面々の生き生きとした表情に、芝居ができる喜びを全身で感受しているかのような演じ手の姿が重なります。

 稽古開始前に青虎さんにお話を伺いました。

「七川虎之助一座というのは前回の公演『森の石松』でご好評をいただいた設定で、彼らが登場するのは今回限りです。大衆演劇の一座らしく芝居と共に歌や踊りも大きなみどころなのですが、懐かしの昭和のCMソングに乗って(ベテラン女方の市川)段之さんの十八番芸やスーパー歌舞伎Ⅱの振付もなさった穴井豪さんのコンテンポラリーダンスなど多彩なジャンルとなっています。下村さんにはあの有名なミュージカルナンバーを、石橋正次さんには往年のヒット曲『夜明けの停車場』を生歌唱していただきます。前回は芝居の中にショー的要素を盛り込みましたが、今回は2部構成に分けました」

 ショーは虎之助一座という枠を超え、猿之助と愉快な仲間たち個々のメンバーとしての見せ場も盛り込まれ、青虎さん自身も若手の皆さんと踊ります。

 猿之助さんのアドバイスで二部構成に分けたのは、芝居に込められたメッセージをしっかりと届けたいという理由があってのこと。

「コロナ禍を経て自分たちは、芝居ができることのありがたさを改めて実感しました。役者として生きることの悦びを再確認した前回を経て、『新説 堀部安兵衛』では役者である前にひとりの人間として、という部分に向き合っていきたいと思いました。芝居もそうですが人はひとりでは何もできない。みんなで手を取り合いお互いに支えあってこそ、です。その中で生まれる感謝の気持ちを大切に、これからの生き方を再確認できるようなものになれば。そして最後はショーでスカッと爽快な気分になっていただく。そんな舞台を目指しています」

歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」

2022年10月4日(火)~27日(木)
第一部 三代猿之助四十八撰の内『鬼揃紅葉狩』/赤穂義士外伝の内『荒川十太夫』
第二部 『祇園恋づくし』/『釣女』
第三部 『源氏物語 夕顔の巻』/『盲長屋梅加賀鳶』
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/794

猿之助と愉快な仲間たち 第2.5回公演
七川劇団リターンズ『新説 堀部安兵衛』

2022年10月20日(木)~23日(日) 銀座 博品館劇場にて上演
http://zen-a.co.jp/yukainaen2.5/