雑誌「CREA」編集部員Tのお悩み
【男の人とうまくいかない】

――私の場合は「男の人とうまくいかない」というのが人生最大の悩みでして。ちなみに離婚して子どもがいるんですが、新しい彼氏ができるたびに子どもは「これがママの最後の恋なら応援する」と言ってくれるんです。いつも今度こそはと思うのに、やっぱり別れちゃう。

宇多丸 え、またしても子どもすげえなー。最高のキッズがいていいじゃないですか。

――子どもは最高なんですけど、私自身が悪いのはもちろん、私の選ぶ男の人にも問題があるのかなって思い、共通点を探してみたら、みんな宇多丸さんが好きなことがわかりました(笑)。

宇多丸 うわー、これは僕が考え直さないといけない案件かな(笑)。それって映画好きとか、要するにめんどくさいヤツってことですよね。

――そうですね。映画とか音楽とか、いろんなことに詳しくて、最初はそういう話ができるのも嬉しいなと思うんですけど、だんだん恋が醒めてくると、めんどくさ!って思っちゃう。

宇多丸 あー、なるほどねー。僕が最近よく思うのは、趣味が合うって、仲良くなるキッカケとしてはいいと思うんだけど、人生を分かち合うパートナーとなると、やっぱり趣味よりは価値観が合うとか、一緒にいて楽しいとかいうことの方が大事かなって。僕も奥さんと映画の趣味とか全然違うしね。いやー、でもショックだなー。

――なんか、すいません……。

宇多丸 いや、わかるわかる。でも、その僕のファンの男性たちに言いたいのは、俺、普段からずっとこうじゃないから。一緒に映画を観て蘊蓄とか絶対に言わないし、そもそも僕、普段からデートで映画に行くべきじゃないって言ってますから。なんで恋愛状態にいる二人が一緒にいて、二時間ずっと黙ってなきゃいけないの。それだったら、どこかでおいしいものを食べながら話すとか、デパートとか家具屋でも行って、お互い何が好きかさりげなく価値観の擦り合わせをすればいい。蘊蓄なんて論外ですよ。

――一緒にご飯を食べたりしていて、楽しい瞬間はあるんですよ。ただ、話している時にバカじゃない? と思う瞬間があって……。

宇多丸 それは、俺はものを知ってるんだぞ、というのが鼻に付くってことですよね。「ものを知ってる」っていいことではあるんだけど、ものを知ってるから賢いわけでも、おもしろいわけでもない。ものは知ってるけどバカでおもしろくないヤツはいっぱいいるし、逆に、ものは知らないけど頭が良くておもしろい人もいる。まさに彼らも、ものは知ってる風だけど、Tさんにはバカみたく見えちゃったと。でも、嫌なところが見えてきて振ってるのはこっちなんだから、別に問題ないとも言えるんじゃ?

――でも、みんなうまくいってるのに、なんで私はダメなんだろうって。

宇多丸 いや、みんな本当のところはうまくやってるかなんてわかんないよ。実際はいろいろあるのに目を瞑ってるだけかもしれないし。そもそも、何をもって「うまくいく」というのかも、わかんないし。かくいう僕も若い頃は、賢い人だと思われたいっていうのが過剰に強くて、そういう賢い俺と付き合う女はこれぐらいであって欲しい、みたいに相手を値踏みして、付き合ってた女性のフェミニズム的な主張を小手先で論破していい気になったりしてました。マジ最低!

 でも結局、振られて痛い目にあって、ようやく自分の愚かさに気付いて大いに反省したし、だんだん自分を賢く見せたいとか、相手をジャッジするようなことが抜けてきた。今まで失礼を働いてきたみなさん、本当にすみませんでした! とにかくパートナーシップにとって、知識があるとか趣味が合うなんてことは、かなりどうでもいいほうのことだと今は思ってますけど。とはいえ、こういうのが正解とかもないと思うし、そういう人ばっかり好きになるってことは、Tさんにとってやはり、そこが大事なのかも知れないしね。

――確かに、いくらうまくいっても、好きな相手じゃないとですよね!

宇多丸 そうそう、せっかく息子さんも応援してくれてるんだから。とりあえず確率論で、どんどん数打ちゃいいと思いますよ。

――今日はありがとうございます! これからも臆せず恋愛していこうと思います(笑)。

宇多丸(ライムスター)

1969年東京生まれ。ラッパー、ラジオパーソナリティ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」のメインパーソナリティを務める。

ライムスター宇多丸のお悩み相談室


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2022.09.14(水)
文=井口啓子
写真=佐藤 亘