日本語ラップの草分け的グループ、ライムスターのラッパーでラジオDJ、文筆家としても活躍する宇多丸さんの人気連載『ライムスター宇多丸のお悩み相談』がついに書籍化! 恋愛、仕事、人間関係など、さまざまな女性の悩みにそっと寄り添い、こんがらがった枝葉を整理しながら、その根っこにある問題を掘り当て、具体的な対処策を提示してくれる。宇多丸さんならではのユーモアと叡智に富んだ回答には、女性のみならず全ての人にとって有効な、混沌とした時代を生き抜くヒントがたくさん散りばめられています。
インタビュー後半では、『ライムスター宇多丸のお悩み相談 CREA WEB出張編』として、編集部員の赤裸々なお悩みについて、あーだこーだ、一緒に考えていただきました!
雑誌『CREA』編集長Iのお悩み
【コミュニケーションが苦手で、なんでも過剰になってしまう】
――小さい頃から人見知りで、誰もいない時間をねらって公園に行って、誰かが来たら帰っちゃうような子だったんです。今では仕事の時は社交的に振る舞えるようになったんですが、それはたんにハイになってるだけで、家に帰ると一気に無になるんです。しかも一度、無になると再開するまでに時間がかかってしまい、待ち合わせに合わせて家を出れなかったり、メールを返信せずに溜めてしまったりしてしまうんです。
宇多丸 なるほど、要はエンジンをかけるのが大変ってことですよね。僕もここまで極端ではないけど、その傾向はあるかも。オンオフがすごい激しいんで、わかる気もします。まあ、現在は仮にも編集長として立派に社会生活を送られているわけですから、大丈夫なんじゃないの? 遅刻は問題だけど。
――さすがに仕事で遅刻はマズイので、なんとか頑張るんですけど、プライベートではついグダグダになりがちで……。
宇多丸 遅刻に関しては、いつも遅れがちだとわかっているなら、単純に行動開始時刻をもっと前に設定するとかは無理なんですかね。俺の付き合いのあるDJ JINって男は、今から移動しますってなった時に必ず「トイレ」って言うんですよ(笑)。で、なんで早めに行っとかないのと言ったら、いや、今から移動っていう時に尿意が生じると。それじゃあしょうがねえなって話になったんですが、それに近い感じかな?
――それともちょっと違って、出るのが遅れても奇跡的に間に合うような経験があると、今回もなんとか間に合うんじゃないかと思ってしまうんです。
宇多丸 なるほど、成功体験が逆効果になってるんだ。じゃあ、待ち合わせに間に合うためのプラスポイントを設けるのはどう? 早めに行ってコーヒー飲みたいとかカレー食べたいとか、これをしたいというのを毎回設定すれば、その欲望に引っ張られて動けるんじゃないかな。
――なるほど、それは有効そうですね。メールの返信はどうでしょう。しなくていいようなメールはすぐに返信できるんですけど、大事に思ってる人ほど返せなくて、重要マークのメールが溜まっていきがちなんです。
宇多丸 大事だからこそ返信に時間がかかって、結果、失礼なことになってる。それも気持ちはわかるけどマズイよね。対処法としては、まずは「後ほどきちんとメールします」って返信しておくのはどうかな。今ちょっとバタバタしてるけど、あなたのことはちゃんと気に掛けてますって伝わればいいんだからさ。
――なるほど、それは早速実行してみます! あと、これは家での反動だと思うんですが、仕事中にテンションが変に上がりすぎて、話し始めると止まらなかったり、わざと相手が困ることを言ってしまうんです。
宇多丸 それはオンオフの温度差が激しいが故に、加減がわからなくて、つい暴走してしまうってことですよね。誰しもオンとオフの違いってあって、僕もオンの時はがんばって宇多丸というキャラクターを演じてる部分はあるけど、たまにエンジンが掛かりすぎて、「あー、調子乗りすぎちゃったな、感じ悪ー」って、後で自己嫌悪に陥ることは確かにある。ま、放送上では、ちょっと「過激風」みたいなのがいい場合もなくはないんだけど、それが本来の意図を越えて人を不快にしたり、傷付けたりしかねないとしたら、やはり気をつけてゆかないとまずいよね。
――自分としてはサービス精神のつもりなんですけど、やばい、困ってる! って(苦笑)。
宇多丸 あー。それはアイドルやアーティストのファンでも結構いるタイプですね。他の人が言わないようなことを言って印象付けたいとか、こういうことも知ってるんだぞとアピールしたいんだろうけど。「〇〇で〇〇しちゃってましたよねー」とか、当人が気落ちするようなことを言ってきたりするからさ、そのコミュニケーションの仕方は間違ってるぞ!って言いたい(笑)。なんなんだろうなぁ。本人はそれがおもしろいと思ってるんでしょうね。
――私もよく息子に言われます。「それ、おもしろいと思ってるんだよね?」って。
宇多丸 うわ、言われちゃってるんだ(笑)。それで自戒できればいいんですけどね。コミュニケーションって、いろんな形があるんだろうけど、どうせだったらお互いが喜べる方がいい。だから、ファンの子たちにも言いたいです。なんでそんなこと言うんだって(笑)。
――ちょっとざわつかせたい気持ちがあるのかも。
宇多丸 そっか、まあ一発かましてやろうみたいな気持ちもわからなくないけど(笑)。コミュニケーションって踏み込むだけじゃない、いい距離をとってお互い適度にいい感じになればいいって面もあるわけで。まぁ編集長の場合は、たぶんみんなそういう人だとわかった上で、しょうがねえなーって付き合ってるんじゃないかとも思うし、それはそれで個性なんだから完全に矯正してしまうこともない気はしますが。ただ、相手との関係性によっては、立場的にパワハラにもなりかねないし、常に加減のチェックは必要かもしれませんね。これは自戒を込めて。
――ありがとうございます。じゃあ、次は編集部員Tの悩みです。
2022.09.14(水)
文=井口啓子
写真=佐藤 亘