日本語ラップの草分け的グループ、ライムスターのラッパーでラジオDJ、文筆家としても活躍する宇多丸さんの人気連載『ライムスター宇多丸のお悩み相談』がついに書籍化! 恋愛、仕事、人間関係など、さまざまな女性の悩みにそっと寄り添い、こんがらがった枝葉を整理しながら、その根っこにある問題を掘り当て、具体的な対処策を提示してくれる。宇多丸さんならではのユーモアと叡智に富んだ回答には、女性のみならず全ての人にとって有効な、混沌とした時代を生き抜くヒントがたくさん散りばめられています。

 インタビュー前半では、宇多丸さんが10年にわたって人生相談をしてきた中で気付いたこと、現代の「悩み」の正体と自衛策について、伺いました。男も女も、幾つになっても悩みは尽きないからこそ、誰のためでもない自分にとって幸せを、改めて考えてみませんか?


「悩みって本当は答えなんてない」

――今回の人生相談の企画は、もともと10年前に始まったそうですね。

 そうですね。もともとは、聞き手のこばなみ(小林奈巳さん)が編集をやっていた東京FMのフリーペーパーでライムスターの人生連載として始まったもので、そこから彼女が仕事を変えるのと共に、大学のフリーペーパー、女性のためのポータルサイト(現在は『女子部JAPAN』)と媒体を移しながら続いていった感じですね。

――宇多丸さん的には人生相談というものにハードルの高さは感じませんでしたか?

 連載を始めた当初は、お悩みを一喝して終わるみたいな、いわゆるネタ連載的な感じだったんですよ。でも、やっていくうちに冷静に考えて、人の悩みを茶化すのはダメじゃない? というのが出てきて。特に女子部JAPANに移ってからは事後報告が届くようになって、自分の言ったことで人の人生が悪い方向にいっちゃったらヤバイぞ! と、だんだん真面目になっていったんです。

――確かに人生相談って、回答者のキャラありきで、おもしろおかしく一刀両断したものがある種のスタンダードとしてありますよね。

 そうなんですよ。でもバシッて答えられるってことは、実は自分の中で最初から答えがあるってことで、要は話を聞いてないのと同然だなと思って。本当に真剣に答えようとしたら、答える方もああじゃない、こうじゃないと悩むし、途中で意見が変わったりするものなんです。だから、この連載の解答は、実はこばなみと結構ダラダラ長く話したものを一度まとめて、さらに僕が何回もブラッシュアップして完成したものなんです。

――それは意外です。ラジオみたいなノリかと思ってました。

 やっぱり、自分のことやエンタメについて話すならいいけど、現実にある人の悩みに答えるのは、ラジオみたいに言いっぱなしの場では難しい。そもそも、悩みって本当は答えがないんですよね。もし絶対的な答えがあるんだったら、その人にも答えが出せるはずなんだけど、ないからこんなところに言葉を寄せてる。そんな本来答えのない悩みにその場でバシっと答えが出せるわけがないんですね。たとえば、ラジオやPodcastでリスナーからの悩みを聞いているジェーン・スーさんは、女性からの悩みを同性の目線で、ある程度はバサッと見切って答えられる部分もあると思うんだけど、それと同じことは男性である自分にはできないし、しちゃいけないなと思って。これでいいかなー? って何度も考えたり、編集者にチェックをしてもらいながら、ようやく自分なりに出したものがコレなんですね。

――なるほど。しかし、現実に存在する女性の悩みをこれだけ聞くという体験も、なかなかないことですよね。

 ないですよね。普通に生きてる50代男性が、これだけいろんな年代立場の女性の生の声を聞くこと自体、ほとんどないから、本当にありがたい――とは言っちゃいけないけど、毎回本当に勉強させてもらいました。

―― 一口に「女性」と言っても、いろんな立場や考え方の人がいるわけで、同性である私も、読んでいて「わかるー」というお悩みもあれば、「こんな考え方もあるんだ!」と驚かされることもあって。中でも、女性の悩みに男性である宇多丸さんが答えることに対する、読者からの問題定義にはハッとさせられました。

 言われてみれば、そうだよねって感じだよね。でも、そういう声をちゃんと取り上げて考えられるのが、この連載のいいところだなと思いました。だって伊集院静さんに、なんで男性のあなたにそんなこと言われなきゃいけないんですか? って、なかなか言えないし(笑)。僕の悩み相談だからこそ、話し合えたテーマかなって。

――特に、セクシズムの問題なんかは、男性側にも当事者として一緒に考えて欲しいものだけに、男性である宇多丸さんが回答者であることは、すごく意味があった気がします。

 僕ら男性にとっては、問題の所在を知れる時点で収穫だと思うんですよ。今までは女性の諸問題を自分事として捉える男性は少なかったかも知れないけど、さすがに最近はそれでいいと思ってない人は多いだろうし、僕がその両者を繋ぐ、ある種の窓になれたらいいのかなって。もともと、ラップ業界とそれ以外を繋いだり、両方の入り口になる立場になることが多いし。窓口担当が向いてるのかなって(笑)。

2022.09.08(木)
文=井口啓子
写真=佐藤 亘