「エゴサーチをやめたらもやもやが99.9%消えた(笑)」

――ちなみに宇多丸さんは、自分のお悩みに関しては、どう対処されているんでしょう?

 僕は解決できない悩みになる前に、ある程度、自分の中で合理的に割り切るというか、解決策を見つけるようにはしてるかな。でも、あんまりいいことじゃないかもしれないね。俺は大丈夫って、客観的にみたら、こういう人がいちばん危ないんだよって思うよね(笑)。

――確かに(笑)。

 自己開示が大事だなんて言ってるけど、よくよく考えると、奥さんにもあんまり弱音を吐いたりとかはしないし。お前がいちばんできてないじゃないか!と(笑)。まあ、今のところは自分で、ある程度は切り分けて考えることができてるつもりだから……。いや、あぶねえなー(笑)。いっぺんカウンセラーとか行ったほうがいいかも知れないね。定期検診的な感じで、プロに診てもらったら、おたくこれ、できもんできてますよってことになるかもしれないしね。

――身近な人に悩みを吐き出せないという人でも、直接は関係のない第三者だと気軽に相談できるし、相談にも乗れる部分はありますね。

 そうそう。本当に近しい人に重大な件を相談されても、「それ俺、決められないから!」ってなるよね。他人事だと、良くも悪くも冷静に見られるし。本にも収録されてる、SNSの悪口に関するお悩みでも言ってるけど、自分が悪口を言われるとウジウジしちゃうけど、自分事じゃないと「そんなの気にしてんの?」みたいなテンションになりますからね。

――悩みにとらわれないためには、何事も俯瞰してみるのが大事ということですかね。

 とりあえず僕の場合、エゴサーチやめたら、それまでのモヤモヤしてたもの99,9%が除去されましたね。あれは本当によくないね。もうスッパリやめて1年以上経つけど、なんの支障もないしね。とはいえ、僕は自分でメディアも持ってるし、スタッフとか、日々いろんな人とやり取りできてるから、そう思える部分もあるのかもしれない。

 今の若い子なんかはSNSが人間関係の大前提になってるから、やめたら孤独になってしまうかもしれないし、難しいですね。

 僕自身のいちばんの悩みは、「曲を作んなきゃいけないけど、できるかな」とか。「今度こそもう無理じゃないかな」とかかな。考えても仕方がないとはわかってるんだけど、毎回やり始める前は考えちゃう。その繰り返しですね。

――ひとつの悩みが解決しても、人生悩みは尽きないし、本当の解決ってなかなか難しい。だからこそ、宇多丸さんがよく言われる「折り合いをつける」という言葉は、現実的だし、すごくしっくりきます。

 みんな常に綱渡りだよね。特に今は昔と違って、社会やコミュニティの枠組みが10年後も続いていくことがあり得なくなった。社会が変わっていくことがデフォルトになりすぎちゃって、テクノロジーの進化のスピードに、社会の枠組みや人間のあり方が付いていけなくて、みんな将来に不安を抱えてる。どんな金持ちですらそうだと思う。そんな時代なんですよね、きっと。

――そういう混沌とした時代に、不必要に翻弄されない軸を持つには、どうしたらいいんでしょう?

 やっぱり常に言ってるけど、自分はこうしているときが「快」なんだってことを常に意識化して、できるだけそれで生活とか人生を彩るようにするしかないんじゃないかな。社会も他人も、変えたくてもなかなか変えられないけど、自分の身の回りのことは比較的コントロールできるから。世間がどうとか関係なく、自分にとって何が心地いいか、何が幸せかをちゃんと考えて、小さいことでもいいから、ちゃんと実行する。そうやって、自分にとっての「快」を積み重ねて自衛していかないと、社会は基本残酷なところですから、そりゃ悩みもするわなって。

――女性のお悩みを10年間聞いてきて、感じられた変化はありますか?

 やっぱり、悩みを相談する方も、それに答える僕の方も、#me too以降、問題意識の持ち方が大きく変わってきましたよね。前だったら、これはセクシズムの問題だとカテゴライズしないまま、漠然と話を進めていたかもしれないことが、これは完全にセクシズムの問題だということを前提に話ができるようになった。個々の悩みの根源にある、世の中の枠組みの問題みたいなのがクリアになってきたのは、大きな変化であり、希望と言ってもいいんじゃないかな。

 後半(9月14日頃公開予定)では、「CREA」編集長Iと、編集部員Tの悩みを宇多丸さんに聞いてもらいます。

宇多丸(ライムスター)

1969年東京生まれ。ラッパー、ラジオパーソナリティ。ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」のメインパーソナリティを務める。

ライムスター宇多丸のお悩み相談室


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2022.09.08(木)
文=井口啓子
写真=佐藤 亘